大門 美奈(DAIMON Mina)
横浜出身、茅ヶ崎在住。作家活動のほか企業とのコラボレーションや、WS講師、雑誌・WEBなどへの寄稿を行っている。2011年開催の『Portugal』以来、個展・グループ展多数開催。代表作に『浜』『新ばし』、同じく写真集に『浜』(赤々舎)など。海外や日常のスナップのほか、日本の伝統美や陰影の表現を得意とする。
WEB:https://www.minadaimon.com/
Instagram:@minadaimon
Leica Qシリーズは愛用のカメラだ。
2015年発売の初代のLeica Q(Typ116)とその後継機である2019年発売のLeica Q2、Leica Q2は現在も愛用しておりその性能には十分満足しているため2023年発売のLeica Q3は見送り、そして先日2024年9月末に発売したLeica Q3 43である。こちらは発売日当日に入手した。なんといっても惹かれたのはその焦点距離である。スナップするのであればLeica M11-PやLeica M10 MonochromなどのいわゆるM型Leicaといった嗜好性の高いタイプが好みではあるが、雨天時や仕事で使用するのであれば、やはりオートフォーカスが使用でき、かつデジタルズームを使用しても十分実用可能な画素数を担保できるLeica Q2以降が便利だ。
コンパクトなサイズ感はLeica Q3とほぼ同様だが、レンズがLeica ズミルックス f1.7/28mm ASPH.からLeica アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH.になったため50gほど重量は増したとのこと。シックなグレーが美しく、Leicaロゴの鮮やかなレッドが引き立つ。
アクセサリーシューに刻印された LEICA Q3 43の文字はあくまで控えめ。艶をおさえたペイントの質感は見た目だけでなくその手触りも高級感を感じさせる。
鏡筒の手前のリングを回すだけでマクロレンズ仕様になる初代からのユニークな機構。使用したいときに直感的に操作できる。マクロ使用時の絞りはF2.8が解放値となる。
隙のない美しさ。ふとした光の加減でこのカメラのデザイン性の高さに改めて気づくことができる。今回は隙のなさが「隙間のなさ」にもなってしまったわけだが。
現在居住しているのは海辺の街。越してきた当初こそM型Leicaを浜に持ち出していたものの、絶え間なく吹き続ける潮風だけでなく塩分を多く含んだ砂はM型Leicaには大敵。
その点Leica QシリーズはLeica Q2からIP52相当の防塵・防滴性能を備えているため、たとえ海辺で友人たちと酒盛りをしてそのまま浜に倒れ込んだとしても安心である(実証済み)。もちろんいままで不具合が起きたことは一度もなく、信頼のカメラだ。
Leica Q3 43・絞りF5.6・1/2000秒・ISO100・WBオート
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安心して海辺に持ち出せるぶんだけ、多くのシャッターチャンスに繋がる。いつもの浜ではLeica Q2を持ち出すことが多かったため、43mmという画角が新鮮に感じる。
基本的に、Leica SL3は仕事用、M型Leicaは趣味と仕事、そしてLeica Q3 43は雨の中のスナップはもちろん、仕事の場面でも使い勝手の良いカメラである。コンパクトカメラと言うにはやや大きめではあるが、それでもコンパクトなサイズ感に防塵・防滴性能、有効画素数6,030万画素のセンサー、さらにはLeica アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH. 搭載ともなれば万能カメラと言っても言い過ぎではないだろう。
Leica Q3 43・75mmクロップ・絞りF3.2・1/125秒・ISO125・WBオート
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どこか懐かしい雰囲気の漂う商店街で見かけたマネキン。現在主流ののっぺらぼうではなくしっかりメイクの彼女。視線を感じたのはこのためかもしれない。
ポートレート的に撮影したかったので75mmにクロップして撮影。Leica Q3 43は通常画角の43mmのほか、60mm、75mm、90mm、120mm、150mmと6段階でクロップできる。ガラス越しながらオートフォーカスの吸い付きも非常にスムーズ。
Leica Q3 43・絞りF3.2・1/160秒・ISO400・WBオート
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見知らぬ場所での街歩きは普段は見かけない被写体との出合いがあって楽しいものだ。色とりどりの素材の印鑑をマクロに切り替えて撮影した。マクロ設定時の撮影範囲は26.5~60cm。
ピント面の前後がうるさくなりがちなシーンでも、ごくなめらかで自然なボケはさすが世界最高峰と謳われているレンズだ。
Leica Q3 43のボディは昨年発売したLeica Q3と同様だが、特徴的なのがそのレザー。Leica Qシリーズは限定品でない限り一貫してブラックボディにブラックの貼り革で統一されていたが、今回はシックなグレー。光の加減によってはブラックにも見えなくないほどの深いチャコールグレーだが、以前使用していたLeica M-Eの軍幹部の色味を思わせるようで、これがなんとも上品で気に入っている。
ほかにデザイン面で大きく変わった部分といえば、レンズフードだ。フレアカッターが採用されたフードが付属されているため、Leica Q3のフードと比較するとだいぶコンパクトな設計となっているが、少々困ったことが通常のフィルターを装着するとこのフードを付けることができなくなってしまうという点。わたしの場合フードは外してフィルターを装着しているが、最高のレンズ性能を発揮するには多少面倒でも同梱のレンズフードキャップで保護したほうがいいだろう。
Leica Q3 43・絞りF2・1/500秒・ISO100・WBオート
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写真を撮り歩くにはカロリーが必要である、ということで静岡のクラフトビール店へ。ドアの磨りガラスが美しく、入店前に一枚。通常時の最短撮影距離である60cmぎりぎりまで近づいて撮影したが、ディストーションも全く感じさせず、かつドアの汚れまで緻密に描写。木枠やガラス、ガラス越しの観葉植物の描写の違いもレンズ性能の高さを感じさせる。
Leica Q3 43・90mmクロップ・絞りF2.8・1/160秒・ISO320・WBオート
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喉がかわいていたので写真も撮らずに一気にぐいとやってしまった。グラスが汗をかいてきたところを思い出したように一枚。マクロ、かつ90mmにクロップして撮影したが水滴のひとつひとつまでしっかり解像するその描写力に感心しきり。撮影した写真を液晶画面で確認しているとますますビールが進むというもの。
Leica Q3 43・90mmクロップ・絞りF2・1/160秒・ISO4000・WBオート
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ビールで喉を潤したら次は栄養補給へ。写真を撮りながら鷹匠という名店が立ち並ぶエリアの居酒屋へ移動。今回はフォトウォークの合宿企画なので思う存分飲める、ということで早速一升瓶を注文。
Leica QシリーズはM型(モノクローム専用機を除く)と比較しても高感度ノイズ耐性は高く、ISO4000までならほぼ問題なく使用できるレベル。飲み屋で大きなカメラを持ち出すのは無粋である。コンパクトなカメラでさっと撮ったらさっさと飲むのがマナー。
Leica Q3 43・絞りF2・1/80秒・ISO1600・WBオート
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夜のスナップは楽しい。今回宿を取った両替町あたりは静岡市随一の繁華街のひとつ。明るいレンズも手伝って、 2次会の会場を探しながら気軽に夜のスナップを楽しめるのもLeica Q3 43の利点。
低照度下でもオートフォーカスが迷うことなく、狙った箇所にピントがしっかりきてくれるのが爽快。なお、測光方式は日中は「多点」、夜間は「ハイライト重点」がおすすめだ。
Leica Q3 43・150mmクロップ・絞りF2・1/400秒・ISO100・WBオート
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翌日は昼過ぎから再びフォトウォーク開始。なにやらお囃子が聞こえると思ったら、神輿が出ている。思わぬ出合いも旅の楽しみのひとつ。
あまり近づける場面ではなかったので思い切って150mmまでクロップして撮影。6段もクロップするとブライトフレームの枠のサイズは極小と言ってもいいほどだが、576万ドットのEVFのおかげで非常に見やすく、困るということはない。画素数は約500万画素とだいぶ縮小されるが、SNSなどで使用するぶんには問題ない範囲だろう。
Leica Q3 43・絞りF4・1/250秒・ISO100・WBオート
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祭り好きの表情は明るくていいものだ。一旦神輿が置かれてくつろいだ表情の男性二人に近づいて撮影。曇天の下、はっきりとした色合いの装束がよく映える。
Leica Q3 43・60mmクロップ・絞りF5・1/1250秒・ISO100・WBオート
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祭りの列から離脱して駿府城公園方面へと向かう。一雨きそうな空を見上げると一羽の鳩がタイミングよく飛び立った。輝度差がある場面ということでさすがに空は真っ白に写るだろうと思っていたが、しっかりと雲の表情を描き出しているのはさすがのレンズ性能である。
Leica Q3 43・絞りF2・1/125秒・ISO100・WBオート
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この日も早くから宴会をスタートし、駅へ向かうと派手な衣装を身に纏った3人組が目に飛び込んできた。そういえば間もなくハロウィンの時期か。咄嗟にLeica Q3 43を構えてシャッターを切る。シャッタースピードはそれほど遅くはないが、歩きながら撮影するような場面では光学式手ブレ補正機構搭載の安心感は大きい。
基本的に50mm前後の焦点距離を好むわたしにとっては待ちに待ったカメラの登場である。現在もLeica Q2を使用しているが、こちらは28mm(体感的には25mm)ということもあり、35mmにクロップして使用することが多かったため、標準域のレンズを搭載したQシリーズがあればと10年近く思い続けてきたのだ。広角レンズというのはなかなか勢いが必要なものである。ごくニュートラルな気持ちで撮影するにはこの43mmというレンズ、しかも Leica アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH. が最適解だったのだ。
これまでのQシリーズに搭載されていた Leica ズミルックス f1.7/28mm ASPH. から Leica アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH. との写りの違いだが、後者は前者と比較して断然ナチュラルで緻密な印象であるのが特徴である。正直なところもう少し硬さがあるのではと想像していたのだが、そういった類は一切なく、非常になめらかかつ上質。画角、写りともにごく自然に入り込める最高品質のカメラ、それがLeica Q3 43なのではないかというのが発売から1ヶ月間使用した感想である。高騰の一途をたどるカメラ機材において、6,030万画素という高画素センサーに最高峰のレンズと自在に操れるクロップ機能が搭載されたLeica Q3 43 は、もしセンサー付きのレンズと定義するならばもはや「お得である」といえるのかもしれない。
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Photo & Text by 大門美奈(だいもん・みな)