Leica M8。ライカ初のデジタルレンジファインダー
1/8000秒。手に響くシャッターフィーリング
APS-H、ローパスレス、コダック製 CCDセンサーの生み出す世界
レンズはCarl Zeiss T*を選ぶ
今だからLeica M8を選ぶ
高橋俊充(TAKAHASHI Toshimitsu)
1963年、石川県小松市生まれ。デザインプロダクション勤務を経て、1994年フリーに。アートディレクター、コマーシャルフォトグラファーとしての活動を主体とし、フォト・ドキュメンタリーをテーマに写真創作に取り組み、写真展開催、写真集制作など自身写真作品を発表し続ける。
受賞歴:日本APAアワード入選、金沢ADC・会員特別賞、準グランプリ、ほか多数。
個展:2011年 SNAPS ITALIA(東京・新宿)、2014年 SCILIA SNAPS 2013(神奈川・湘南)、2018年 SNAPS (東京・表参道、代官山)、2019年 SNAPS ITALIA LUCI E OMBRE(石川・金沢)、2019年 能登(東京・六本木)ほか。
グループ展:出店多数。
写真集:「SNAPS ITALIA」「SNAPS MOROCCO」ほか
ウェブサイト:https://www.toshimitsutakahashi.com
Instagram:@toshimitsu.takahashi
@TAKAHASHI Toshimitsu 2008
Leica M8・Carl Zeiss C Biogon T* 4.5/21 ZM・絞りF4.5・1/20秒・ISO320(ベトナム・ホイアン)
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フィルム時代、私が愛用していたカメラは一眼レフだった。Canonから始まりCarl Zeissレンズに憧れCONTAXを使うようになった。 モデルは137MD。モータードライブ内蔵で、シャッター音とともにその巻き上げ音もとても心地の良いものだった。そしてフィルムは仕事も含め主にポジフィルム。特にプライベートではいつもKodakのコダクロームを愛用していた。ZeissレンズのT*コーティングにコダクロームが描き出すコントラスト高く濃厚な色合いは、一度使うともう他のフィルムで撮る気が起きないくらいだった
その後、最初に手にしたレンジファインダーはLeicaではなくEPSON R-D1sだった。レンジファインダーで初めてデジタルカメラとして世に登場した当機。ファインダーは等倍で、軍幹部には飛行機の計器のように指針式のメーターが鎮座。それらの針は撮影枚数や、バッテリー残量、ホワイトバランスまでも示すという、デジタルカメラでありながら、暑苦しいくらいアナログ感満載の逸品だった。
2006年。Leica初のデジタルレンジファインダー Leica M8が登場する。
その姿に驚いた。既出のEPSON R-D1に対して真逆とも思えるソリッドなルックス。もちろんR-D1との比較はナンセンスだが、そのデザインは歴代M型Leicaをしっかり踏襲している。巻き上げクランクはなく電源スイッチとシャッタースピードダイヤル。フィルムカウンターは左肩にデジタル表示で小さく備わる。これだけを見れば淋しいくらいにスッキリした姿ではあるが、改めてこれがLEICA DESIGNだ。とてもかっこいい。
フィルム時代。M型Leicaのシャッターフィーリングといえば「ささやくような音でありながら剛性感を感じる心地よいもの」という印象だった。しかしながらLeica M8のシャッターは、その頃の趣を感じさせるものではない。
「バッ!ッゥーーンッ!」
金属質で甲高いシャッター音に、チャージ音が続く。
フィルムLeicaに慣れたユーザーにするとかなりの違和感だと思うが、私にとってその音は「M8のシャッター、カッコイイッ!」と感じたのだ。
もちろん、レンジファインダーの撮影スタイルといえば、カメラの存在も控えめでさり気なくが心情。シャッター音に関しても静かであるに越したことがないだろう。
Leica M8のシャッター幕はフィルム時代の布幕横走りから、金属羽根縦走りとなっている。その事により最速1/8000秒のシャッタースピードを実現している。Leica M11では電子シャッター搭載により1/16000秒まで実現しているが、メカニカルシャッターではこのスピードを叩き出せるM型Leicaは、Leica M8のほかに存在しない。
その恩恵は、大口径レンズで発揮する。明るい屋外においても絞り開放で撮影できるなど、表現の自由度が広がる。この高速シャッタースピードを生むためにトレードオフとなったと言えるシャッター音ではあるが、このシャッター音こそLeica M8の魅力の一つでもある。
後にファームアップで、シャッターとチャージが分かれる分離シャッターなどが搭載されるが、それは余計なお世話だとさえ感じた。
シャッターフィーリングは、カメラ選びにおいて非常に重要な要素の一つだ。Leicaはその部分を大切に考えている。撮影者の気持ちを高めてくれるのは、シャッターボタンに触れ、そのボタンを押し込んだときの「シャッター音」、「シャッターフィーリング」にほかならない。
@TAKAHASHI Toshimitsu 2008
Leica M8・Carl Zeiss C Sonnar T* 1.5/50 ZM・絞りF1.5・1/2000秒・ISO160(ベトナム・ホイアン)
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まず前提としてLeica初のデジタルMは赤外線カットが十分でないため、被写体によっては黒いものが紫に被ったりと色味に影響を及ぼす。それが独特の色合いを生み出してもいるが、その色被りはクレームとなり購入者には2枚ずつUV/IRカットフィルターを提供するという事にもなった。もちろんモノクロでの表現には影響は及ぼさない。
APS-Hサイズのセンサーは今ではあまり見ることはないが、焦点距離は約1.33倍。35mm判フルサイズではないものの、R-D1のAPS-Cに比べると大きく、レンジファインダーのブライトフレームを覗いての撮影スタイルでは、意外と焦点距離通りのイメージで撮影できる。
画素数は1,030万画素。これも今どきのデジタルカメラからすればかなり見劣りするスペックではあるが、ローパスレスで切れのある画質は、ポスターサイズの大判プリントや極端なトリミングなどしなければ十分な解像度でもある。
そしてコダック製のCCDセンサーだが、これはフィルム時代コダクロームを愛用していた自身からすると大いに期待するところで、その画は期待を裏切ることなく大変満足いくものだった。
もちろんコダック製といえ、フィルムとデジタルとでは異なる。コントラストは高く濃厚な色味を出すが、コダクロームとも違う独特の味わいだ。
また、よく言われる描写の傾向としてLeica M9はポジフィルム、Leica M8はネガフィルムと言われるが、私としてはLeica M8もポジフィルムっぽく感じる。比較的にネガフィルムのようにハイライト部分の階調も粘るので、いわゆるフィルムライクで、ポジフィルムのような濃厚の表現や、ネガフィルムのようなハイキーな描写も作り上げることが出来る。
@TAKAHASHI Toshimitsu 2008
Leica M8・Carl Zeiss C Biogon T* 4.5/21 ZM・絞りF4.5・1/20秒・ISO640(ベトナム・ホイアン)
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Leica M8は、私が初めて買ったLeicaボディだった。中々の高額につきいきなりLeicaレンズまで手にできるものではなかった。そこで選んだのはコシナ製のZMマウントCarl Zeissである。
「C Sonnar T* 1.5/50 ZM」「C Biogon T* 4.5/21 ZM」の二本。
フィルム時代はCONTAXにPlanar 50mm、Distagon 28mmを装着しコダクロームで撮影していた。まさにコダックCCDセンサーを搭載したLeica M8で、そのイメージを再現できると目論んだのだ。
そしてその描写は期待を裏切ることなく、とても濃厚で独特の色合いを持っていた。
レンズには提供されたUV/IRカットフィルターをほとんどのシーンで装着して撮影していたので、色被りなどを気にしたことは無かった。
@TAKAHASHI Toshimitsu 2008
Leica M8・Carl Zeiss C Sonnar T* 1.5/50 ZM・絞りF1.5・1/8000秒・ISO160(ベトナム・ホイアン)
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@TAKAHASHI Toshimitsu 2008
Leica M8・Carl Zeiss C Biogon T* 4.5/21 ZM・絞りF4.5・1/20秒・ISO320(ベトナム・ホイアン)
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@TAKAHASHI Toshimitsu 2008
Leica M8・Carl Zeiss C Sonnar T* 1.5/50 ZM・絞りF1.5・1/750秒・ISO320(ベトナム・ホイアン)
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@TAKAHASHI Toshimitsu 2008
Leica M8・Carl Zeiss C Sonnar T* 1.5/50 ZM・絞りF1.5・1/45秒・ISO160(ベトナム・ホイアン)
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この執筆にあたり、Leica M8で撮影した写真を見返し、改めてその画質の素晴らしさに驚かされた。2006年にこんな画を叩き出すカメラがあったのだと。
M型Leicaも現行のLeica M11に至るまで進化を積み重ねてきた。新型が出る度に手にしその画質に驚いてきたが、改めて見ると、Leica M8の画を再現できるモデルは存在しない。空気感というのだろうか、聡明かつ繊細でありながら力強さも感じる。CMOSセンサーでは表現できないCCDセンサーに寄るところなのか、独特の世界感である。
電源を入れ、ファインダーを覗きシャッターを落としてみる。力強いシャッターフィーリングとともに当時の熱い思いが蘇ってくる。今となっては動作が遅いなど不満も見え隠れするが、それを上回る魅力を持っているカメラだろう。
「自分がどんな写真を表現し、描きたいか」それは最新モデルだから手にいれることが出来るというものではない。今でもLeica M8を愛するユーザーは数知れない。これからもデジタルカメラは進化を続けるだろうが、デジタルLeica初号機、Leica M8の画を生み出すカメラはLeica M8以外に存在しない。
@TAKAHASHI Toshimitsu 2008
Leica M8・Carl Zeiss C Sonnar T* 1.5/50 ZM・絞りF1.5・1/3000秒・ISO160(ベトナム・ホイアン)
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@TAKAHASHI Toshimitsu 2008
Leica M8・Carl Zeiss C Biogon T* 4.5/21 ZM・絞りF4.5・1/11秒・ISO160(ベトナム・ホーチミン)
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@TAKAHASHI Toshimitsu 2008
Leica M8・Carl Zeiss C Biogon T* 4.5/21 ZM・絞りF4.5・1/60秒・ISO320(ベトナム・ホーチミン)
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Photo & Text by 高橋俊充(たかはし・としみつ)