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2023.06.19
写真・動画の撮り方・ハウツー,

ポートレート撮影のライティングを考えよう× 鵜川真由子 | プロが解説するポートレート写真撮影のコツ【第二回】

ポートレート撮影のライティングを考えよう× 鵜川真由子 | プロが解説するポートレート写真撮影のコツ【第二回】キービジュアル


ライター鵜川 真由子(うかわ・まゆこ)イメージ
■フォトグラファー紹介

鵜川 真由子(うかわ・まゆこ)

株式会社松濤スタジオを退社後、アシスタントを経て独立。広告や雑誌などでポートレイト撮影を中心に活動。アパレルメーカーとのコラボ展の企画など写真を通じて幅広く表現活動を行っている。
2012年 個展「The Secret Garden」開催、TOKYO FRONT LINE PHOTO AWARD入賞
2013年 グループ展「nice to meet you」、個展「Out of the Garden」開催
2015年 個展「NY Love Stories」「Ginza Love Stories」開催
2017年 個展「Rhapsody in Blue」開催
2021年 個展「LAUNDROMAT」「WONDERLAUND」開催、写真集『WONDERLAUND』刊行

はじめに

旅行やイベントごと、日々の仕事や日常のさまざまなシーンで、人物写真、ポートレートを撮影する機会は増えています。

どうしたら素敵なポートレートを撮ることができるのでしょうか。このブログでは、プロカメラマンの鵜川真由子さんによるポートレート撮影についての基本となる考え方やコツを、シチュエーションごとに8回に分けて進めていきます。

構図、自然光、ライティング、焦点距離、背景やボケの活かし方、夜のポートレートなどなど、毎回、鵜川さんが撮影した素敵な作例写真と共にお伝えしていきます。ぜひ参考にしてみてください。

1.ライティングとは

ライティングとは、文字通りライトを使って光を作り出すことです。
光の強弱や角度、色などが違うと被写体の印象も大きく変わります。ポートレート撮影においては光と影をコントロールすることで人物の性質を表現することもできるため、ライティングはとても大切な要素なのです。

前回のテーマである「構図」と同じく、最終的にどんな仕上がりにしたいかを具体的に思い描くことで、光をどのように作っていけば良いのかが見えてきます。

光を作る際におさえるポイントは3つ。写真を見て頂きながら解説していきたいと思います。

光の質
光の当たる角度
光のバランス(複数の光源がある場合)

2.光の質

「硬い光」と「柔らかい光」

ライティングを考える際、まずは光の性質を理解することが重要になります。

光は「硬い」「柔らかい」と表現します。

下の2つの画像をご覧ください。

①は光がしっかり当たっているハイライト部分と、光が当たらず影になっているシャドー部分の陰影・コントラストがはっきりとついて色も鮮やかです。
このようなライティングを「硬い光」といいます。
スタイリッシュでかっこいいイメージを作りたい時に使います。

②の画像はコントラストが低く、光と影の差があまりついていません。
自然光に近く、ふわっとした光に包まれているため被写体が柔らかい印象になります。
これを「柔らかい光」と言います。
優しさや、アンニュイな表現をしたい時にも効果的です。

①硬い光

硬い光で撮影した親子の画像

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②柔らかい光

柔らかい光で撮影した振り返る女性の画像

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人物をどのように表現したいのかによって「硬い光」と「柔らかい光」を使い分けていきます。

ストロボのように人工的な光だけではなく自然光でも通じることなので、光について考える際には常に意識するといいでしょう。
「光の性質」が決まったら次は「どんな方法で撮るか」を考えます。

その前に、専門的な用語についての解説を。どんな方法で光を作るかということと密接に関係していますので、後から出てくる画像とリンクさせて覚えて頂くといいかと思います!

光源の種類

【用語の解説】

・直当て・直射
ストロボと被写体の間に何も遮るものがなく、光が直接当たる最も硬い光のことです。
その中のベアバルブとはストロボのリフレクター(ランプシェードのようなもの)をつけず、光源が剥き出しになっている状態のことを言います。

・バウンス
光を壁や天井などに当て、跳ね返ってくる光を被写体に当てることです。最も一般的な、アンブレラを使う方法もバウンスに当たります。ワンクッション置くため光の硬さが少し和らぎます。

・ディフューズ
光源からの光を被写体に直接当てずに拡散させて柔らかくすることです。
紗幕トレーシングペーパーなどのディフューザーや、バンクライトを使います。

・メインライト
文字通り一番メインとなる一番強い光源のことです。画作りで最も重要な要素ですね。

・フィルイン(補助光
メインライトで影が大きくつき過ぎた場合などに影を和らげます。

・モデリング
ストロボは瞬間的にしか発光しないので、被写体にどのような光が当たっているのかがわかりません。それを確認できるようについている定常光です。

では改めてどんな方法で撮るかを決めていきましょう。

同じ場所・角度から条件を少しずつ変えて発光した画像を並べていますので、光源の種類による肌の質感と、影の濃さの変化に注目してください。

「硬い光」▶️「柔らかい光」の順番に並んでいますので、最適な方法を選ぶ際の参考にしてくださいね。

【光源の種類】

■直当て・直射
① ベアバルブ

直当て・直射・ベアバルブで撮影した女性の写真

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夏の直射日光のような光になります。

②リフレクター有り

直当て・直射・リフレクター有りで撮影した女性の画像

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コントラストがはっきりします。色をしっかり出したい時には効果的です。

■バウンス
③ アンブレラ

バウンス(アンブレラ使用)で撮影した女性の画像

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最も一般的な方法です。

④ 壁バウンス

壁バウンスで撮影した女性の画像

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あまり機材を持ち込めない場所などで使える方法です。

■ディフューズ
⑤ バンクライト

ディフューズ(バンクライト使用)で撮影した女性の画像

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アンブレラと並んで最も一般的な方法です。

⑥ トレペ(トレーシングペーパー)

ディフューズ(トレーシングペーパー使用)で撮影した女性の画像

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広いスペースが必要になりますが個人的にはよく使います。

少しずつ顔の印象が変わっているのをお分かり頂けたでしょうか。
光の質に加え、お手持ちの機材や撮影場所の条件などによって最適な方法を選択するといいでしょう。

3. 光の角度

光の性質とどんな方法で撮るかが決まったら、次は「どの角度から光を当てるか」を決めていきましょう。

これは人物の印象を決める重要な要素の一つです。
光の角度によって固有の名称で呼ばれることもありますので合わせて解説します。

※実際には様々な光源を使って光の柔らかさを調整しますが、今回は陰影をわかりやすくするために全て直射(リフレクター有り)で撮影しています。影の出方に注目してください。

・被写体の真正面からのライティングです。
カメラにクリップオンストロボをつけた場合もこのようになりますね。
フラットな光ですが、色やコントラストが強いためファッション撮影などで使われます。

被写体の真正面からライティングした女性の画像

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・正面斜め上から
鼻の下に蝶々のような影ができるためバタフライティングと呼ばれています。
柔らかい光源との相性がよく、顔が美しく引き立ちます。

被写体の正面斜め上からライティングした女性の画像

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・レンブラントライト
画家のレンブラントが人物を描写する際に使用する彩光を模したライティングです。被写体の正面から斜め45°、高さも斜め45°くらいの位置が目安です。向かって右側の頬にできる三角形がポイントです。
モデリングを確認しながら位置を決めるといいでしょう。

レンブラントライトで撮影した女性の画像

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・スプリットライティング
真横からの光で、顔の半分をハイライトとシャドーに分ける方法です。
かなりドラマチックな印象になりますので、ミステリアスな演出をするなど特殊な表現の時に適しています。

スプリットライティングで撮影した女性の画像

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・ショートライティング
光源はレンブラントライトと同じ角度から。人物がライト側に向いた場合の、顔の広い側に光が当たっている状態です。
程よく陰影がつくので顔が立体的に表現でき、人物をスリムに見せる効果があります。使用頻度は高めです。

ショートライティングで撮影した女性の画像

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・ 右)ブロードライティング
ショートライティングの逆側からの光です。

ブロードライティングで撮影した女性の画像

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■「光の質×光の角度」
光源の角度だけでもこんなに色んな表現ができることがお分かりいただけたと思います。

今回はわかりやすいように一番硬い直射を使用していますが、光源の種類を変えて「 レンブラントライト × バンクライト 」や「 バタフライ × トレペ 」などのように組み合わせを変えることで様々な光を作り出すことが可能です。

しかし一灯では陰影がつき過ぎてしまうため補助光やレフ板を入れて影の濃さを和らげる場合が多いのですが、その時に大切になってくるのが光のバランスです。

4.光のバランス

光の強さ

2灯以上のライトを使う場合、それぞれの光の強さのバランスがポイントになります。
露出計を使って一灯ずつ光の強さを測ってコントロールしていく方法を下の作例を見ていただきながら解説していきたいと思います。

クラムシェルライティングで撮影した女性の画像

クラムシェル 

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こちらはクラムシェルと呼ばれるポピュラーなライティングを使用しました。

上下を2灯のバンクライトで挟んでいる形が二枚貝のように見えることからつけられた名称です。
肌の質感を美しく描写するため、ビューティー撮影などで使用されることが多い方法です。
(※今回は上のライトにビューティーディッシュを使用しています。)

クラムシェル(Profoto D1 500 Air、Profoto ビューティディッシュ、PHOTOFLEX Lite Dome Q3 9TM[platinum series]使用)での撮影風景

【使用機材】

・Profoto D1 500 Air 
・Profoto ビューティディッシュ
(ソフトライトリフレクター ホワイト)
オパライトとも呼びます
・PHOTOFLEX Lite Dome Q3 9TM(platinum series)

クラムシェルの上のライトで撮影した女性の画像

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MINOLTA AUTO METER V F(露出計)の画像

まず、上のライトの強さを露出計を使って計測。ISO100 / 1/125秒 / f5.6半という数値が出ました。
シャッターを切るとこんな感じ。
顎の下に濃い影がくっきり出ていますね。

クラムシェルの下のライトで撮影した女性の画像

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次に下からのライトです。
ISO100 / 1/125秒 / f5.6 という数値が出ました。
シャッターを切るとこんな感じ。
懐中電灯を下から当てたようになりました。
これだけだとちょっと怖いですね。

クラムシェルで撮影した女性の画像

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最後に両方のストロボを合わせてもう一度露出を測ります。
ISO100 / 1/125秒 / f8 という数値が出ました。
カメラの露出を合わせて撮影したのがこちらの写真になります。
顎の下の影が薄くなり、顔全体に光が綺麗に当たって美しいですね。

光のバランスとはどういうことか?
光の強さは上がf5.6半、下はf5.6ですので、上の方が1/2段、光が強いとうことになります。

ここがポイントで、下の方が露出が強いとか、上と下の差が大きすぎると美しいライティングにはならないためバランスを調整する必要があるのです。

クラムシェルの場合は少しだけ上の光が強い状態が理想的です。
なのでここでは1/2段の差をつけました。

ポートレイト撮影 使用アイテム

【ポートレイト撮影で使用するアイテム】

・露出計 (CONICA MINOLTA auto meter VF を使用)
 光の強さを計測するために使います。

・レフ板
 光を反射させて被写体に当てることで少し明るさをプラスします。
 片方が白、片方が銀色になっていて、反射させたい光の強さによって使い分けます。
 小さく折りたたんでコンパクトに持ち運べるので外ロケでの撮影にも必須なアイテムです。

・バウンス板(カポック)
 主にスタジオ撮影で使用します。
 白い面はレフ板と同じく被写体を明るくする効果があり、黒い面は光を抑える効果があります。
 2枚をつなげて人物の横に立てて使うことも多いです。

・サイコロ・ハコウマ
 人物を座らせたり高さを調整するために使う木製の箱です。サイコロは正六面体で3通りの大きさがあるので用途によって使い分けます。

魅力的なポートレイト撮影の豆知識 

■キャッチライト
ライティングを作る流れの本筋とは違うのですが、魅力的なポートレイトを撮影する際に知っておくといいポイントをご紹介します。

キャッチライトとは、人物の瞳に映り込んだ光のことです。目がキラッと光ることで人の表情が生き生きして見えます。キャッチライトの形は光源の種類によって変わるので、別にライトを用意したりレフ板を使ってあえて写り込ませることもあるんです。

そのため被写体の目を見るとどんなライティングで撮影されているのかがわかるんですね。色んな写真の”目”に注目してみると発見があって面白いですよ!

クラムシェルで撮影した瞳の画像

クラムシェル

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直射で撮影したで撮影した瞳の画像

直射

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バンクライトで撮影した瞳の画像

バンクライト

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5. ライティングのセッティング例、作例

Profoto D1 500 Air、PHOTOFLEX Lite Dome Q3 9TM(platinum series) 、Profoto D1 ハニカムグリッド No.5 100mmで撮影した水色のワンピースを着た女性の画像

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硬い光 × 斜め左 × アクセントライトとのバランス


人物の後ろにアクセントライトをプラスしました。ハニカムグリッドを使うことで光の拡散を抑え、一点に集中させることができます。パキッとした色合いが活発な印象を与えます。

Profoto D1 500 Air、PHOTOFLEX Lite Dome Q3 9TM(platinum series) 、Profoto D1 ハニカムグリッド No.5 100mmでの撮影風景

【使用機材】

・Profoto D1 500 Air 
・PHOTOFLEX Lite Dome Q3 9TM(platinum series)
・Profoto D1 ハニカムグリッド No.5 100mm

Profoto D1 500 Air、アンブレラ、トレペで撮影した白いワンピースの女性の画像

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とても柔らかい光( バウンス&ディフューズの組み合わせ)× 斜め右


コントラストが低く、陰影は緩やかなグラデーションになっていて優しい印象になりました。
彼女が座っている箱をサイコロといいます。

Profoto D1 500 Air、アンブレラ、トレペでの撮影風景

【使用機材】

・Profoto D1 500 Air
・アンブレラ
・トレペ

Profoto PRO-7、Elinchrom オクタライト 190cm、ハニカムグリッドで撮影した親子の画像

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メインには被写体の斜め右上から190cmある大きな8角形のバンクライトを使用。左後方から髪の毛に当たるようにアクセントライトを使っています。

【使用機材】

・Profoto PRO-7
・Elinchrom オクタライト 190cm
・ハニカムグリッド

Profoto PRO-7  8灯、紗幕で撮影した振り返る女性の画像

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正面からディフューザーとしての紗幕越しにアンブレラを8灯飛ばしています。とてもポピュラーなライティング方法で、フロント紗幕や背面紗幕と呼ばれています。
大掛かりなセットになるため、大きなスタジオでの撮影に適しています。
とても柔らかい光になります。

【使用機材】

・Profoto PRO-7 8灯
・紗幕

Profoto PRO-7 、アンブレラで撮影した腕を上げてポーズする女性の画像

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正面よりやや右側から、アンブレラ1灯を当てただけのシンプルなライティング。
健康的な美しさを表現するために影を作らず、顔&体全体に光が当たるようにしました。はっきりとした色合い・コントラストで活動的なイメージになりました。

【使用機材】

・Profoto PRO-7
・アンブレラ

まとめ

ライティングの決め方の流れを見て頂きました。

光の質(光源の種類) × 光の角度 × 光のバランス

この基本的な3つの要素を組み合わせることで光を作り、コントロールすることができるのです。
まずは人物のどこを引き立てたいのか、どんな印象の写真にしたいのかを考え、最適な方法を選んでいきましょう。

Photo & Text by 鵜川 真由子(うかわ・まゆこ)

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