α7R Ⅳの進化点・特徴
向上した画質
強化されたAF
安心の手ブレ補正
メカシャッターの低振動と耐久性が強化
細部にわたる進化
新型のα7R Ⅴとの関係をどう考えるか
おわりに
作例に使用したカメラ
SONY α7R Ⅳ
作例に使用したレンズ
SONY FE 16-35mm F2.8 GM / FE 600mm F4 GM OSS / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / FE 24-105mm F4 G OSS / FE 400mm F2.8 GM OSS
まとめ
きつねのひと | 写真家 | 早稲田大学非常勤講師
風景写真の撮影をする中、キタキツネを中心に動物がいる美しい風景を追いかけるようになり、米誌「National Geographic」の『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』のネイチャー部門において、日本人初の1位を獲得。写真は国内のみならず海外の広告などでも使用され、最近は、SONYや AIRDO などの企業と提携しながら撮影をしている。その活動は毎日放送『情熱大陸』やTBS『金スマ』などで紹介されている。早稲田大学基幹理工学部非常勤講師。
α7R Ⅳがリリースされたときにもっともおどろいたのが、その当時に満足して使っていたα7R Ⅲからの大幅な進化でした。
まず、画素数の大幅な増強です。画素数のオバケだと思って使っていたα7R Ⅲの4240万画素から一気に6100万画素への進化で、より精細な写真を撮影することができるようになったことにおどろいたものです。
自然風景の撮影でも木々の枝葉の細部や雪原に積もる雪の表情、野生動物の詳細な表情や羽毛、毛皮、鱗などをいっそう正確に捉えられるようになったことがとてもうれしかったです。
また、4240万画素から6100万画素への画素数増加にともなって、写真データの長辺ピクセル数が、7,952ピクセルから9,504ピクセルに大幅に増えました。こちらの写真(上)は、元の写真(下)のものから、長辺をいわゆる4Kの3,840ピクセルにトリミングしたものです。一枚の写真からいくつものトリミングができてしまいそうです。
また、α7R Ⅳから吐き出される9,504ピクセルというおどろくほど大きなデータでは、APS-Cのクロップ(メニュー画面には「APS-C/Super 35mm」と表記されている)をすると、長辺6,240ピクセルのトリミングになります。
これは、α9やα9 Ⅱに搭載されている2,400万画素センサーの長辺6,000ピクセルを超えるものです。α7R Ⅳの6100万画素というのは、とんでもない「余裕」を持った画素数と言えるでしょう。
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SONYα7R Ⅳ・ FE 16-35mm F2.8 GM(35mmで撮影)
F16・1/640秒・ISO100・WBマニュアル
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オリジナルの写真は下の写真。オリジナルの長辺は9,504ピクセル。上の写真では、いわゆる4Kである3,840ピクセルでの切り出しをしている。これだけのトリミングができることにおどろく。
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SONYα7R Ⅳ・FE 600mm F4 GM OSS
F6.3・1/2000秒・ISO500・WBマニュアル
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タンチョウのつがいが鳴き交わしながら吐き出す息が朝日を浴びている。600mmで撮影していたものの、のちにトリミングをしたくなった。APS-Cクロップをしても長辺6,240ピクセルも残っているのは、撮影後のトリミングで作品をさらに追い込むときの大きな味方になる。
SONYα7R Ⅳ・FE 70-200mm F2.8 GM OSS(91mmで撮影)
F11・1/250秒・ISO100・WBオート
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「白樺のラインダンス」と呼んで通っているカラマツと白樺と木立を撮ってみた。想像を超える解像感にため息が出る。白樺の黄葉の一枚一枚が見える。
SONYα7R Ⅳ・FE 70-200mm F2.8 GM OSS(108mmで撮影)
F11・1/25秒・ISO100・WBオート
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カラマツと白樺の木立に気の早い雪が降った。雪化粧をした風景は、ときに立体感を失うようにベタッとした描写になることがあるが、α7RⅣで撮影したデータには木々に積もった雪の階調が見えるために、立体感を失わずに仕上がっている。
SONYα7R Ⅳ・FE 24-105mm F4 G OSS(24mmで撮影)
F4・1/500秒・ISO100・WBマニュアル
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岬と灯台に陽が差したときにシャッターを押している。灯台の白壁が白く飛ばないことを願いながら、アンダーに撮影して、シャドウ部を持ち上げて目で見たときと同じくらいの輝度差を画面内に再現することを目標に現像している。低ISOで撮影したRAWデータには目を見張るほど豊かなデータが詰まっている。
SONYα7R Ⅳ・FE 600mm F4 GM OSS
F4・1/800秒・ISO1600・WBマニュアル
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ヒグマの毛色は暗いのに対して、川面には白く明るい水の流れがあって、輝度差の大きなシーン。その質感を見せるために現像でシャドウ部を持ち上げたが、ノイズを目立たせないで質感を取り戻すことができている。
α7R Ⅲからの進化でうれしかったことのひとつに、強化されたAFを挙げることができます。α7R Ⅳの567点の位相差AFポイントの数は、α7R Ⅲの399点から大幅に向上しています。より多くの位相差AFポイントの搭載は、より緻密で正確なピント合わせに貢献してくれていることでしょう。
また、α7R Ⅲの「ロックオンAF」からα7R Ⅳの「リアルタイムトラッキングAF」への進化は素敵です。ロックオンAFでは、狙いたい被写体にファインダー内のカーソルを合わせてロックオンのボタンを押すという動作が必要でした。
しかし、リアルタイムトラッキングAFでは、シャッターボタンを半押しにすることで、AFエリア内で狙った被写体を色、距離、顔に加え、模様、瞳を自動検出してAFポイントが追従しはじめます。あとは、任意の構図と瞬間でシャッターを切るだけです。
AFを動作させるときの操作がひとつだけ減ったのですが、このひとつがとてつもなく大きいという印象です。特に、激しく動き回る動物を撮影するときには、このひとつの動作があるのとないので対応力がかわります。
1秒間に10枚の連写をしているなら、5枚分くらい違うと言えるでしょう。AFを動作させて安定するまでのほんのわずかなタイムラグの一瞬分とも言えます。どちらにせよ、そのひとつの動作がなくなったことで、素敵な瞬間を写し止めることができる可能性が高まりました。
ただ、ひとつとても残念なのが、α7R Ⅳでは動物の瞳に対するリアルタイムトラッキングAFが機能しないこと。後発のα7 Ⅳやα7R Ⅴでは機能するようになっているのですが、この記事を執筆している2023年4月の段階でα7R Ⅳにはアップデートによる機能充実はされていません。
動物を撮影するときは、“動物”ではなく“物”として被写体を認識させてリアルタイムトラッキングAFを使うか、AF-CでAFエリアをワイドにして、リアルタイムトラッキングを使わないで動物対応の瞳AFを動作させることになります。これでもそれなりに撮影できるのですが、アップデートを期待していただけに物足りなさを禁じ得ないところがあります。
SONYα7R Ⅳ・FE 70-200mm F2.8 GM OSS(70mmで撮影)
F4・1/4000秒・ISO125・WBマニュアル
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α7R Ⅲに搭載されていたロックオンAFに比べてα7R Ⅳに搭載されたリアルタイムトラッキングAFは、とっさに使いやすく、正確になっている。動物対応の瞳AFとは併用できない点に注意したい。
SONYα7R Ⅳ・FE 70-200mm F2.8 GM OSS(200mmで撮影)
F4・1/1250秒・ISO250・WBマニュアル
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α7R Ⅳの動物対応の瞳AFは、リアルタイムトラッキングAFとの組み合わせでは動作しないので、通常のAFとの組み合わせで使用する。このとき、AFエリアは「ワイド」や「ゾーン」とするのが使いやすい。
6100万画素となると、その高画素がうれしい反面、心配になるのが手ブレ補正です。ほんのわずかな手ブレが高画素の精細なピクセル一コマ一コマに与える影響は大きいです。もちろん、ピクセル等倍で見なければ気になるようなものでもないのかもしれませんが、がんがんトリミングをして作品を作っていくなら話は別です。
公式によるカメラの紹介では、α7R Ⅳは、シャッタースピード約5.5段分の手ブレ補正が可能とされ、α7R Ⅲに比べて2段分程度向上しているとのこと。加えて、手ブレ補正機構のアルゴリズムが改良されて、より高精度かつスムーズな手ブレ補正が可能とのこと。期待が高まります。
というのも、私がよく撮影する被写体は野生動物ですから、400mmクラスの望遠レンズを使うことがとても多いです。こいうった超望遠レンズでの撮影時は、レンズは重くて、レンズの全長が長いことから手ブレがとても大きくなりやすく、結果として写真にブレが発生しやすいものですから、手ブレ補正の進化には大いに期待するのです。
α7R Ⅳに600mmの超望遠レンズを装着してどんな使用感なのか見てみると、これはいい!慎重に撮影するときは、三脚に乗せて撮影をするのですが、手持ち撮影でも、クリアでシャープな画像です。加えて、動画撮影時も、5軸で手ブレを高精度に補正するので、とても頼もしいカメラに仕上がっています。
SONYα7R Ⅳ・FE 600mm F4 GM OSS
F4・1/800秒・ISO400・WBオート
※4Kサイズ(長辺3,840ピクセル)にトリミングしている。
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600mmの超望遠レンズでの撮影は、手ブレが大敵。ここまでトリミングをすると、1ピクセル、2ピクセルのブレも見えてきてしまう。このようなシーンでは、強化された手ブレ補正機能があると安心だ。
SONYα7R Ⅳ・FE 600mm F4 GM OSS
F4・1/1600秒・ISO640・WBマニュアル
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走りまわるエゾリスを超望遠レンズの先に追いかけ、シャッターチャンスがあれば、背景を整えてシャッターを押していく。言葉にするのは簡単だけれど、実際には自身の体はあちこち悲鳴を上げ、揺れるゆれる・・・そんなときにより安心になった手ブレ補正機能はありがたい。
α7R Ⅳを使って、目にも留まらぬ速さで動き回る野生動物を撮影するとき、野生動物との距離を十分に取ることができて、シャッター音が周囲の環境で目立たず、加えて他の撮影者に邪魔にならない場合は、メカシャッターを使用することがあります。
というのも、電子シャッターを使用して高速運動をしている被写体を撮影すると、こんにゃくのようにゆがんで写ってしまう問題があるためです。連写を多くする撮影手法を用いるときに心配になるのが、シャッターユニットの耐久性です。
この点、α7R Ⅳのシャッターユニットは、前モデルのα7R Ⅲに比べて強化されており、シャッターライフが10万回から50万回に強化されているとのことです。これは、α7R Ⅳをいっそう長期的に使用することができそうで安心です。
SONYα7R Ⅳ・FE 400mm F2.8 GM OSS
F4・1/250秒・ISO400・WBマニュアル
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離乳して固形食を食べ始めた子ぎつねたちのもとに食べものを運びつづけるきつね母さんが、急ぎ足で横切っていった。
α7R Ⅳでこのように動きのある被写体を撮るときは、被写体が歪んで写らぬよう、メカシャッターを使うのが安心だ。その口には、何があるのだろうと拡大してみると、ネズミやカニが見える。こういった観察は、6100万画素という高画素機ならではの楽しみ方かもしれない。
これまでにあげてきた進化に加えて、マウント部の防塵・防滴性能のアップ、グリップの厚みが増していて握りやすく変更したこと、UHS-2カードのダブルスロットになったことなど、細部にわたる進化がうれしいです。
マウントシェアの急激な拡大があったにも関わらず、その中でユーザーの意見や期待に応える進化を続けて新型モデルとしてリリースするという営みは、そう簡単なことではないことと思います。これからも、そういう取り組みを継続していただけるとうれしいです。
α7R Ⅳからα7R Ⅴへの進化の最大の目玉は、まったく新しいAFである「認識AF」ということができます。ピント合わせの苦労を一気に解放するその技術は、野生動物撮影や動画の撮影の強い味方になることは言うまでもありません。
逆に考えると、「目まぐるしく動き回る被写体を撮ることはあまりないが、ときどき動物を撮りたい。それに、とても長いレンズを持ち歩きたくないので、できたらいっぱいトリミングできたらうれしい。」と静止画撮影を考える方には最高の選択肢だと思います。
このような方で、α6000シリーズ、α7 Ⅲなどで静止画を主に撮影されているなど、次のαに乗り換えを検討されている方は、α7R Ⅳも選択肢として検討してみることをおすすめします。
私がはじめて手にしたα7Rシリーズは、α7R Ⅱでした。その後にリリースされたα7R Ⅲ、α7R Ⅳ、α7R Ⅴを作品づくりや仕事の撮影に使ってきて、どのRにもそれらのリリースのときにワクワクさせられ、得られる画に進化があって「使って楽しい」という感覚が都度ふくらんだことを覚えています。
いま、どのRを選ぼうかと悩まれている方がもしいらっしゃれば、お伝えしたいです。「どのRも素敵な体験ができるはずです」と。
もちろん、最新のα7R ⅤのAF性能は今日申し分のない性能です。それでもなお、α7R Ⅲやα7R Ⅳの高画素センサーが生み出す画はやはり素晴らしいものあります。AFに比べると、高画質化はじわりじわりとした進化に感じられるのですが、その意味では、撮り手の被写体を基準にRを選ぶのがバランスの取れた選択と言えるのかもしれません。
風景をメインにするのであればα7R Ⅲまたはα7R Ⅳを、人物や動物が被写体になってくるとα7R Ⅳやα7R Vという選択でしょうか。ぜひ、みなさまもRシリーズの高画質を楽しんで見てください。
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Photo & Text by 井上浩輝(いのうえ・ひろき)