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2023.04.24
メーカー・プロインタビュー,

富士フイルム開発陣インタビュー × 赤城耕一【フィルムシミュレーション編】| さまざまなフィルム描写を手軽に楽しめる

富士フイルム開発陣インタビュー × 赤城耕一【フィルムシミュレーション編】キービジュアル


ライター赤城 耕一イメージ
■フォトグラファー紹介

赤城 耕一

東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)など多数。

フィルムシミュレーション各種の画像

はじめに

富士フイルムのXシリーズ、GFXシリーズの大きな魅力のひとつが、さまざまなフィルム描写を手軽に、多様な表現を楽しめる「フィルムシミュレーション」。今回はフィルムシミュレーションの開発・搭載の経緯から、その楽しみ方や目から鱗な活用法まで深掘りしお話しいただいた。

インタビュー参加者の集合写真

インタビュー参加者の皆さん

富士フイルム株式会社<br>イメージングソリューション事業部<br>プロフェッショナルイメージンググループ<br>商品企画グループ マネージャー<br>渡邊 淳氏イメージ

富士フイルム株式会社
イメージングソリューション事業部
プロフェッショナルイメージンググループ
商品企画グループ マネージャー
渡邊 淳氏

富士フイルム株式会社<br>イメージングソリューション事業部<br>イメージングソリューション開発センター<br>技術マネージャー<br>入江 公祐氏イメージ

富士フイルム株式会社
イメージングソリューション事業部
イメージングソリューション開発センター
技術マネージャー
入江 公祐氏

富士フイルムイメージングシステムズ株式会社<br>コンシューマー営業本部 広域チェーン営業部<br>兼・量販営業部<br>カメラ専門店・ECグループ<br>野口 貴史氏イメージ

富士フイルムイメージングシステムズ株式会社
コンシューマー営業本部 広域チェーン営業部
兼・量販営業部
カメラ専門店・ECグループ
野口 貴史氏

フジヤカメラ 商品部 内野イメージ

フジヤカメラ 商品部 内野

フィルムシミュレーションの発展

赤城 耕一氏(以下 赤城):感材メーカーでもある富士フイルムのフィルムシミュレーションは色が良いと評判ですね。スタートはいつの頃だったのでしょうか?

富士フイルム株式会社 入江 公祐氏(以下 入江):初めてフィルムシミュレーションを搭載したのは「FinePix S3 Pro」です。しかし、このときはまだフィルムの銘柄は採用されていませんでした。実際に初めてフィルムシミュレーションに「PROVIA」とか「Velvia」といった、フィルムの銘柄を採用したのが「FinePix S100FS」です。

それまでは、デジタルカメラに自社のフィルム名を採用するのが憚られたのですが、その頃になると社内的なコンセンサスがとれるようになり、感材のメンバーからも納得してもらえるようになったためです。

その後、X-Pro1でプロ用ネガフィルムの銘柄を想起させる「PRO Neg.Std(プロネガスタンダード)」と「PRO Neg.Hi(プロネガハイ)」が追加されるに至りました。
FinePixで始まったフィルムシミュレーションは、Xシリーズで発展していったのです。

赤城:ユーザーのなかには、フィルムシミュレーションを使いたいから富士フイルムのデジタルカメラを使うという人も多そうですが、どうでしょう?

フジヤカメラ 内野(以下 内野):Xシリーズが登場して以来、そうしたお客様は多くいらっしゃると思います。売り場でも、色を重視している方や、昔からフィルムを使っているといった方には、富士フイルムのカメラを勧めることは実際によくあります。

赤城:コンテストの審査などをしていると、やたら彩度の高い写真みたいに、過度のレタッチをした写真を見ることが多いんですよね。そこへいくと、フィルムシミュレーションは基準がシッカリしているからやりすぎてしまうことがない。
そういうカメラを指名買いするということは、やっぱりフジヤカメラのお客さんは写真的民度が高いんですね(笑)

内野:フィルムでなければ出ないと思っていた色調が撮って出しでできてしまうことに感動されるお客様は多いですね。レタッチであそこまで追い込むのは、かなり難しいことだと思いますので、フィルムシミュレーションはとても画期的なことなんだな、と私も感心しています。

赤城:ユーザーが自分の好みに合わせて選べるところが良いですよね。私はネガフィルムを使うときはモノクロが多いから、どちらかといえばフィルムシミュレーションも「ACROS」を選びがち。でも仕事ではウケを狙って(笑)「Velvia」みたいに派手なのを選ぶこともありますもの。

そういった意味では、今後も新しいフィルムシミュレーションが追加されて、選択肢が増えていく可能性もあったりしますか?

入江:そうですね…増やしたい気持ちはもちろんあるのですが、現状ですでに20種類近くありますので、どうしようかと…

赤城:確かにそれはそうですよね(笑)でも「こんなのが欲しい!」という要望はまだまだありそうですものね。

プロネガハイのイメージ画像

プロネガハイ。屋外などフラットなライティングでのポートレートに適したモード

プロネガスタンダードのイメージ画像

プロネガスタンダード。作り込むライティングのポートレートに適したニュートラルな階調

FinePix S3Proの商品画像
FinePix S3Pro
インタビューの様子(渡邊氏、入江氏)

フィルムシミュレーションの“基準”はどこにある?

赤城:フィルムシミュレーションの種類はますます充実してきています。これはやはり要望があって増やしているものなのでしょうか?

入江:基本的には、渡邊をはじめとする企画の人間がシッカリと精査したうえで、私どもに寄せられた要望が伝えられるようになっています。また、逆に私どもから提案を出すこともあります。

概念的名称のフィルムシミュレーション

赤城:開発されていて、思い出に残るというか、印象的だったフィルムシミュレーションはありますか。

入江:「クラシッククローム」というフィルムシミュレーションが、「X30」で初めて搭載されたときに、フィルムの名前ではないのにフィルムシミュレーションに入っていることを不思議がられたことがありました。

しかし、そこで一皮むけた感があって、それ以降、フィルムの名前でない、概念的な名称のフィルムシミュレーションの開発を増やしていけるようになったのが印象的でした。

フィルムシミュレーションで大切なことは、プロの方でも趣味の方でも、撮りたい画が撮れるように用意されるべきものですので、そこにあわせてどんどん新しいフィルムシミュレーションを追加できるようになりました。

軸のブレない画作り

赤城:写真を鑑賞するという意味では、現代はPCのモニターで見たり、インクジェットプリンターで出力してみたり、あるいは御社のフロンティアで焼いた銀塩プリントを見たりと、手段も多岐にわたるようになっていると思います。

フィルムシミュレーションにも、スライド用のリバーサルフィルムや、プリント向きのネガフィルムの名前をもつものがあるのですけど、何を基準として判断するのが正しいでしょうか?

入江:なかなか難しい質問ですね(笑)われわれとしては、基本的にフロンティア(富士フイルムの業務用ミニラボ機)で焼いたプリントを基準として画作りの傾向を判断するようにしています。

赤城:フロンティアですか。でも、プロも紙媒体の仕事が減っているのが実情で、今回のインタビューにしてもWEB掲載を前提にしています。そうなるとPCモニターやスマホ画面など、透過光で写真を見る機会が多く、判断基準についてもいろいろ再検討が必要になるのではないですか?

入江:おっしゃる通りです。フィルムシミュレーションのうちで、当社のスタンダードとしている「PROVIA」ですが、実はこの「PROVIA」を初めて搭載した2008年発売の「FinePix S100FS」の頃から、ほとんど画作りが変わっていないのです。

新しい機種が出ても、「PROVIA」として違和感のない画作りとなるように努力しているところですし、「PROVIA」以外のフィルムシミュレーションでも同じことがいえます。

赤城:それは素晴らしい。

入江:ただ、本当に何も変わらない、まったく同じかといわれるとそんなことはなく、例えばX-Tシリーズでしたら、「X-T1」、「X-T2」…と世代が進むたびに少しずつ画作りを変えています。

先ほどおっしゃられたように、プリントでの鑑賞を主体として開発していたのが「X-T1」の頃。でもそれだけでは「ちょっとシャドーの調子が弱いね」という話が出て、PCモニターやスマホでの鑑賞にも合うように最適化したのが「X-T3」の頃。

そうして時代に合わせて微調整を行っているのですが、それでも「PROVIA」はやっぱり「PROVIA」のイメージとして受け取ってもらえるよう、基本的な画作りはブレないよう大切にしているというわけです。

PROVIAのイメージ画像

PROVIA。「スタンダード」と位置付ける、さまざまな被写体に対応する基本となるフィルムシミュレーション

インタビューの様子(赤城氏、曽根原氏)

ファームアップで追加されない理由は?

内野:富士フイルムのフィルムシミュレーションですごいと思うのは、カメラのファームウェアがアップデートされても、フィルムシミュレーションは追加されないところだと思います。

他社ですとファームアップと同時に、色仕上げ設定も追加されていくのが普通ですが、富士フイルムは、カメラごとに最適なフィルムシミュレーションは何かについて徹底されているのだなと感じます。

富士フイルム株式会社 渡邊 淳氏(以下 渡邊 ):「クラシッククローム」など、例外的ではありますけど、ここぞというときにはファームアップでフィルムシミュレーションを追加することもあります。

「X-T1」のグラファイトシルバーを出したときに、プレミアムなカラーリングと合わせて、中身も「クラシッククローム」をはじめとする機能追加でアップグレードしたのはその一例です。

内野:フィルムシミュレーションの追加は、カメラの新製品が出るのと同じくらいのインパクトがあるということですね。

渡邊:はい、そうです。おっしゃる通りの考え方でわれわれも開発を進めています。

入江:当社の製品は、同じ世代で同じハードウェアを使ってラインアップを展開しているように見えると思います。
しかし、同じように見えても、実は中身は少しずつ違うものになっているのです。少しの違いではありますが、その少しの違いが意外に大きな違いとなっていまして、新しいフィルムシミュレーションの追加は思ったより難しいです。

ファームアップで新しいフィルムシミュレーションを追加したいとは、もちろんわれわれも考えています。

内野:「ノスタルジックネガ」は中判デジタルカメラのGFXシリーズでないと難しいと聞いたことがありますけど、実際はどうでしょう?

入江:いえ、そんなことはありませんよ。ただ、「ノスタルジックネガ」は、もともと中判のようなラージフォーマットセンサーにあわせて開発したフィルムシミュレーションですので、APS-CサイズのXシリーズに搭載するには、それなりに最適なチューニングをする時間が必要になります。

今回は、そのチューニングするための時間をいただけましたので、「X-H2」シリーズと「X-T5」にも搭載することができました。

赤城:フィルムシミュレーションの開発をするときは、写真家の意見を取り入れるようなことはあるものでしょうか?

入江:それはもちろんあります。どちらかというと、設計を始める前にヒアリングをすることが多いです。
そのうえで、試作したフィルムシミュレーションを見て頂いて、再度ご意見をフィードバックしています。それも、一人の写真家さんだけではなく、世界中のいろいろな方から幅広いご意見をいただくようにしています。

クラシッククロームのイメージ画像

クラシッククローム。低めの彩度、硬めの暗部でドキュメンタリーフォトのイメージを再現できる

インタビューの様子(野口氏、内野氏)

人気のフィルムシミュレーションは何?

赤城:人気の高いフィルムシミュレーションといえば、例えば何が挙がりますか?

渡邊:どのフィルムシミュレーションが人気かを数値化するのは難しいのですね。でも、SNSのハッシュタグなどからある程度傾向を読むのは可能です。

「ACROS」や「ETERNA」はネット上では異なる意味で扱われることもありますので除外しますが(フィルムシミュレーション以外の固有名詞で使われることもある)、それ以外で話題になることが多かったのが「クラシッククローム」です。

そして次が「Velvia」、その次が「クラシックネガ」、続けて「PROVIA」、「ASTIA」といったところでした。

赤城:そうですか。ほほ~。

渡邊:基本となる「PROVIA」、「Velvia」、「ASTIA」、それに「クラシッククローム」、「クラシックネガ」は、やはり数でみても多く、これは今までに聞いていた印象と概ね一致しています。

赤城:「クラシッククローム」は結構発色も渋めなので、意外といえば意外ですね。

渡邊:「クラシッククローム」は気に入って使ってくださる方が、プロアマ問わず多いですね。フィルムシミュレーションのなかでも、比較的最初の方に搭載したものですので、今のところ数字として見える人気が高いのかなと考えています。

累積でなく、新しいフィルムシミュレーションが追加された機会に、期間を区切ってサーチすれば、「ノスタルジックネガ」のような新しいフィルムシミュレーションも好結果になる可能性はあります。

ベルビアのイメージ画像

ベルビア。鮮やかなメリハリあるイメージの表現ができる

アスティアのイメージ画像

アスティア。ソフトな肌再現と鮮やかな青空や緑を両立している

クラシックネガのイメージ画像

クラシックネガ。メリハリある階調と彩度を抑えた立体的な表現が特徴

フィルムシミュレーションを厳密に再現するには?

カメラ内RAW現像 と RAW現像ソフト「X RAW STUDIO」

赤城:フィルムシミュレーションといえば、やはり撮って出しのJPEGはもちろん、RAWでもカメラ内RAW現像や「X RAW STUDIO」(USB接続によってPC上の操作でカメラ内の画像処理エンジンを利用できる富士フイルム純正ソフト)を使った方が、正確なフィルムシミュレーションの色味をだせるかどうか気になっていました。

実際問題として、富士フイルム製以外のRAW現像ソフトを使うと微妙に違いますよね?

入江:はい。カメラ内RAW現像は元より、「X RAW STUDIO」は撮って出しJPEGと全く同じ結果が得られます。「X RAW STUDIO」は一見ソフトウェアに見えますが、カメラを使ってRAW現像していますので。

われわれも一部のRAW現像ソフトのメーカーとは協力関係にあり、ある条件において本来のフィルムシミュレーションと比べても遜色がない結果になっていることは承知しております。

しかし、例えばローキーやハイキーのような厳しい条件では、厳密にいうとわれわれが考えている基準と少しズレている場合があります。

ただし、それは良いとか悪いとかではなく、それぞれが独自にもっている、画像処理アルゴリズム、それにプログラミングの技術の違いが反映された結果ではないかと認識しています。

赤城:なるほど、富士フイルムのフィルムの銘柄を使うことが許されている以上、許容範囲の結果にはなっているということですかね。

入江:そうともいえますが、フィルムシミュレーションはカメラ内でトーンや色味の細かな設定ができますよね?加えまして、「グレイン・エフェクト」とか「カラークロームエフェクト」といった、まさにカメラ内だけで設定できる独自機能があります。

そういったカメラでしかできない機能は、カメラ内や「X RAW STUDIO」でのRAW現像でしかできません。もし撮影時に機能をオンにしていても、他のRAW現像ソフトでは無効になってしまいますので、写真の表現としては異なったものになってしまいます。

赤城:なるほど、言われてみて納得しました。

開発陣もおすすめ「カラークロームエフェクト」

入江:特に、「カラークロームエフェクト」などは、作ったわれわれも気に入っている機能ですので、ぜひカメラ内や「X RAW STUDIO」でのRAW現像で使っていただきたいと思います。

赤城:「カラークロームエフェクト」を、それほど気に入っていますか。それはぜひここで詳しく内容を聞きたいものです。

入江:「カラークロームエフェクト」は、彩度が高い場合に、赤や黄、緑などの色が飽和して諧調が出にくくなるのを抑制する機能なのですが、これは「Velvia 100F」の技術を応用したものです。

「Velvia 100F」は彩度が高いにもかかわらず立体感のある写真が撮れることで評判のリバーサルフィルムで、これには重層効果が巧みに使用されています。

そのフィルムで使われているアナログの効果を、デジタルに応用しようじゃないかということで誕生したのが「カラークロームエフェクト」です。

赤城:銀塩の現像効果をデジタルで再現したというわけですね。

入江:はい。アナログのフィルムというとローテクノロジー、古いものと誤解されがちですが、実はいまだハイテクの塊で、デジタルでもまだまだ学ぶべきところが多くあるのです。
「カラークロームエフェクト」は、感材メーカーでもある当社だからこそできた機能だと自負しています。

X RAW STUDIOのイメージ画像
X RAW STUDIO

■X RAW STUDIO
富士フイルムが無償提供するRAW現像ソフトウェア。カメラの画像処理エンジンを使用することでコンピューターの処理能力の影響を受けず、またカメラで撮影したものと一致した高品質な画像が得られる https://fujifilm-x.com/ja-jp/support/download/software/x-raw-studio/
■カラークロームエフェクトとは
高彩度で階調表現が難しい被写体に自然な鮮やかさと深みある陰影を与える機能。

カラークロームエフェクトをオフにした赤い花の画像

カラークロームエフェクトオフ

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カラークロームエフェクトを強にした赤い花の画像

カラークロームエフェクト強

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拘りのモノクロ・フィルムシミュレーションについて

モノクロの代表「ACROS」

赤城:モノクロはどうですか?

入江:モノクロは「ACROS」が代表的なフィルムシミュレーションですね。モノクロが好きな方は、自家現像を経験したこともある方が多いですし、現像の仕方次第で千差万別の結果が得られますので、どこに基準があるか判断が難しいところがあります。

赤城:私は「ネオパン100 ACROS」(富士フイルムのISO100のモノクロフィルム)でなく、「ネオパン400 PRESTO」(富士フイルムのISO400のモノクロフィルム)を使うことが多かったです。

「PRESTO」のフィルムシミュレーションはいつ搭載されるんだろう?と常々思っています。だって、「ACROS」でISO400やISO3200に感度を設定するのって、やっぱり変ではないですか。

入江:そういう声も多くいただきますが、フィルムシミュレーションの「ACROS」はトーンの設定などを調整していただくことで、ほぼ「PRESTO」を再現したイメージにもできるように設計していますので、調整してお使いいただければ嬉しいです。

赤城:なるほど。それでは「ACROS」を「PRESTO」に設定するための、レシピのようなものは公開されているのですか?

入江:いや、すみません、していないです… 黒白高感度の「PRESTO」は「ACROS」以上にお客様の持つイメージや思い入れが十人十色と考えていますので…

フィルムライクな粒状感

赤城:フィルムシミュレーションの「ACROS」は、ISO1600くらいの高感度から、銀塩フィルムのような粒状感が得られるようになる、なんて話を伺ったこともありますが、4000万画素オーバーのような高画素機ではどうなるのでしょう?

入江:「ACROS」のもともとの思想が、CMOSセンサーで発生する電気的なノイズをアナログ的な粒状に変換できないか、というところから始まっていますので、「X-H2」や「X-T5」のような高画素機だと、フィルムライクな粒状感はISO800あたりから得られるようになります。

わずかではありますが、画素数が増えたことでノイズ感も高まった結果です。

赤城:なるほど。でも、富士フイルムのデジタルカメラは「グレイン・エフェクト」という粒状感を追加できる機能があるではないですか。その「グレイン・エフェクト」と、いまおっしゃったノイズによる粒状感では、どちらがイイ感じなのでしょう?

入江:私個人としましては、ISO感度をあげて粒状感を狙った方がより良いと思っています。

赤城:え!? そうなんですか!

入江:「グレイン・エフェクト」はあくまで後から粒状感を追加する機能です。誤差拡散による擬似階調を発生させたり、または分かりやすくエモさを表現したり、といったメリットはありますけど、「ACROS」使用時に高感度で得られる粒状感は追加されたものでなく、自然発生したものなので情報が減ることがありません。

ですので、ノイズを活かした粒状感が得られる分、ISO感度を上げて撮った方がお得かなと思います。

赤城:おお~、これはモノクロ写真好きにとって有益な情報ですね。

入江:ぜひピーカンのような条件でも、ISO感度を上げてフィルムシミュレーション「ACROS」を高感度で使っていただきたいと思います。「X-H2」シリーズや「X-T5」は、最高1/180000秒のシャッター速度が可能ですので、晴れた日中でも高感度「ACROS」を問題なくお楽しみいただけると思います。

赤城:いや、本当に素晴らしい情報をありがとうございます。

入江:もちろん「グレイン・エフェクト」も、表現のために効果的な機能で、例えば「クラシッククローム」などと組み合わせていただけると、とても写真がエモくなると思います。

階調性を大切にしたいときなどに、「グレイン・エフェクト」を少し加えるだけで、とても効果を実感できるはずですので、こちらも好みに合わせてお使いいただければと思います。

ACROSのイメージ画像

ACROS。豊かなシャドー、高精細なシャープネスが特徴のモノクロモード


■グレイン・エフェクトとは
写真全体に自然な粒状感を加えて、フィルム調の風合いを手軽に演出できる機能。

フィルムシミュレーションは、数値のみでなく育まれた感性から産まれる

赤城:ユーザーからの要望というのは非常に多岐にわたるものでしょうから、それを取り入れながらフィルムシミュレーションの開発を進めるのは大変なことだと思います。

それでも、お話を伺っているように、ひとつひとつのフィルムシミュレーションに対する自信をもっていらっしゃるようにお見受けできたのが、嬉しくもあり、感嘆するところでもありますね。

入江:開発している側からすると、そういったお声をいただけるとすごくモチベーションが上がります。今回新搭載した「ノスタルジックネガ」にしても、これは企画の方から「ニューカラー」をイメージしたフィルムシミュレーションはできないかというリクエストがあって作ったものです。

赤城:企画サイドからのリクエストでしたか。

入江:リクエストがあると、それに応えようとするわけですが、「ニューカラー」のような概念的なイメージの場合、当時のアメリカのちょっと枯れたような、乾いたような、そういった時代背景を考慮しつつ、実際の撮り方なども研究しながら、例えば現代日本でも「ニューカラー」の雰囲気をだせるようにひとつのフィルムシミュレーションを完成させています。

赤城:「ノスタルジックネガ」は、だれでもスティーブン・ショアになれる!という画期的なフィルムシミュレーションなわけですね。そうなると、ショアに迫るためにはGFXシリーズのカメラを買った方がよさそうですね。

入江:そうかもしれません(笑)実はそれもあって「ノスタルジックネガ」は、はじめGFXシリーズ用に開発して搭載しています。お客様の撮影スキルやニューカラーへの造詣も高いのではという…

赤城:ああ、そういうことでしたか!しかし、相当膨大な量の写真を見ないと「ノスタルジックネガ」のイメージをつかむのは難しいのではないですか?

入江:はい。まさに「ノスタルジックネガ」のときは、まず神保町に行ってニューカラー関連の写真集をごっそり買い漁るところから始めています。案外、版によって色が違うものだなあ、なんてことを確認しながら…

赤城:版によって違いますよね(笑)しかし、写真集を見るというのはあくまでアナログ的な話ですので、それをデジタル的な数値に落とし込むのは大変なのではないですか?

入江:大変ではありますが、スキームはある程度確立したものがあります。ですがそこに当てはまらない部分を最終的に数値に落とし込むためにどちらにしようか決断するときには、見た目の印象、つまり自分の感性を信じることになります。

赤城:そうですね。写真を鑑賞するという行為自体が、結局は個々の感性によるところが大きいですものね。

入江:フィルムやプリントの測定データを数値に落とし込むので良ければ、それほど楽なことはないのですが、数値だけで得られる結果は、結局のところ「そうじゃないでしょ」と自分でも感じてしまうことになるので、最後は自分の感性が頼りになります。

その結果、完成したフィルムシミュレーションを受け入れてもらえた喜びの声を聴くと、苦労した甲斐があったと、本当に嬉しくなってしまいます。

ノスタルジックネガのイメージ画像

ノスタルジックネガ。1970年代のカラー表現「ニューカラー」を想起させる色再現が特徴。
ハイライト部は柔らかく、シャドー部はディテールを残した色味で、叙情的な表現ができる

インタビュー風景

フィルム技術は富士フイルムの大切な財産

赤城: ぜひ銀塩フィルムで培われた富士フイルムの技術をもっと広げて欲しいと思います。
渡邊さんの事業とは直接関係がないかもしれませんけど、最近はどこでもフジカラーのフィルムの取り揃えが良くなくて、困っているなかフジヤカメラに行くとちゃんと売ってたりするんですよね。あれがちょっとイラっとしますよ(笑)

一同:(笑)

渡邊:我々には、銀塩のフィルム自体があり、写真プリントがあり、INSTAX“チェキ”があり、デジタルカメラのフィルムシミュレーションがありで、トータルでフィルムの良さをお伝えできる立場にあります。

フィルムに関しては、世界的な需要の高まりに対応しきれておりませんが、世界中のパートナーと協力し、お客様に高品質のイメージング製品を提供できるように努めて参ります。

フィルムシミュレーション相関図

それぞれの特性が一目でわかる、フィルムシミュレーション相関図。19種類の色再現から、自分好みのモードを手軽に設定し撮影できる。

まとめ

・初めてフィルムシミュレーションを搭載した「FinePix S3 Pro」。その後Xシリーズで発展
・現在20種類近いフイルムシュミレーション
・フロンティア(富士フイルムの業務用ミニラボ機)で焼いたプリントを基準として画作りの傾向を判断
・開発陣もおすすめの「カラークロームエフェクト」
・モノクロのフィルムシミュレーションの代表格「ACROS」

インタビュアー 赤城 耕一
Photo & Text by 曽根原 昇

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