人気の高級デジタルカメラ X100 シリーズも、ついに5機種目となりました。新機種に切り替わる度に改良を重ね、少しずつ良くなって来たシリーズですが、X100V は外観から変更が加えられ、大きくモデルチェンジしました。そんな X100V を、お散歩カメラとして使ってみました。
デザインはX100Fから大きく変更されていませんが、ティルト液晶モニターが装備され、外装がアルミニウム製となり、細かな部品の形も少しずつ変わっており、写りに大きく影響する要素であるセンサーも変わり、レンズも新設計という事で、はっきりモデルチェンジと言っていいリニューアルがされました。
カメラを手に取って最初に感じるのは、質感の高さです。X100V から採用されたアルミニウムのボディは、エッジが立ったシャープなデザインで、これまでのX100シリーズの質感を凌駕した、FUJIFILMらしい、使うのが楽しくなるデザインです。
実は、ボタン配置や形に大きな変更はほとんど無いのですが、トップカバーに合わせて、少しずつデザインがシャープになっている事が、クラシックなデザインを強調する結果になっています。X100Vから採用された、ティルトモニターを搭載していながら、大きさが殆ど変わらないのも驚きです。
FUJIFILM のカメラと言えばやはりフィルムシミュレーションです。X100Vのフィルムシミュレーションは、これから発売される X-T4 に搭載される ETERNAブリーチバイパス を除く17モード。定番のVelviaやクラシッククロームは勿論、個人的に好きなPRO Neg.Std、ETERNA、X Pro3から搭載されたクラシックネガも搭載されており、シミュレーションを切り替えながらの撮影は、遊び甲斐がありそうです。
切り替えを手軽に、スピーディーに行う為に、今回の実写テストでは、フィルムシミュレーションの切り替えをコントロールリングで行う設定をカスタマイズしました。おかげで、切り替えの面倒が減り、普段より多くのフィルムシミュレーションを使えていたと思います。
フィルムシミュレーションと併せて、今回は、FUJIFILMのもう一つのフィルムをシミュレーションする機能である、グレインエフェクトを使って何枚か撮影しました。グレインエフェクトは、フィルムの粒状感を、デジタル処理で作り出す機能で、カラー、モノクロいずれでも使え、又、強さや粒子の大きさを変更出来るという凝りようで、なかなか楽しい機能です。
FUJIFILM X100V は、デザイン的にも、写り的にも、フィルムカメラに最も近いデジタルカメラの一台なので、その場その場の雰囲気に合わせて、カメラのどの機能を使うか、試行錯誤しながら撮影しました。
FUJIFILM X100V で撮影をスタートして、最初に感じたのはレンズのボケ味の綺麗さでした。FUJIFILMらしい、ふんわりとして美しいボケは、多くのXシリーズのミラーレス一眼カメラのレンズ群と共通するもので、非常に綺麗だと思います。いや、ミラーレス一眼のレンズ以上かもしれません。
特に絞り開放時の柔らかさは特筆もので、近接撮影にも比較的強い(最短撮影距離約10cm)ので、積極的にボケを活かした写真を撮りたくなります。フィルムシミュレーション ETERNA との相性も抜群です。
カメラ店に勤務しているので、どこにいてもカメラの事が気になります。最近はフィルムカメラやコンパクトカメラが流行っているせいか、カメラとは関係ない中古用品店の店先に、古いレンジファインダー機が展示されているのを見つけてシャッターを切りました。
FUJIFILM X100V は、コンパクトカメラとしては大きいと言われる事もありますが、首からぶら下げるのが億劫になるほど大きく重いわけではないので、使用感を損なわずに気軽に持ち歩ける、適度な大きさだと思います。
このカットは、最近お気に入りのフィルムシミュレーション クラシックネガ を使って撮影しました。クラシックネガは、赤色の出方に特徴があるのですが、椿の花の真っ赤な色が、実物より朱色に近く再現され、少し古い写真のようなイメージになりました。
ニュートラルとは言い難いカラーバランスで再現されるクラシックネガですが、フィルム時代を生きた者としては懐かしく、デジタルカメラで写真を始めた世代の方には新鮮にうつるのではないでしょうか。敢えて自然でないフィルムシミュレーションを選択するのも楽しいもので、FUJIFILM X100V は外観同様フィルムで撮っていた頃のイメージを再現してくれるカメラだと思います。
デジタルカメラのメリットの一つに、気軽にシャッターを切れる、があります。 フィルム時代であれば、高額なリバーサルフィルムの代金や現像、プリント代を考えて、道端のただの石垣に向かってシャッターを切る事は無かったと思います。
FUJIFILM X100V は、「デジタルフィルムカメラ」と言っていいような、操作やデザインまでフィルムカメラをシミュレーションしたカメラですが、両方の良さを叶えられるカメラとも言え、これから写真を始める方にも是非使って欲しいカメラだと思います。しかし、このくらいのボケ感でも、レンズのボケ味の良さが伝わるのは凄いです。
沈みゆく夕日を背に、梅の花を撮りました。淡い色合いや諧調の再現性も申し分なく、とても綺麗です。梅の木が交錯した背景の感じを表現したくて、f5.6まで絞って撮ったカットですが、開放とは違ってピントが合った部分の描写が非常にシャープになっています。X100Vのレンズは創作意欲を掻き立てられるレンズです。
満開の梅林の中で、梅の花の匂いを嗅ぎながらの撮影は、春を感じさせるものでしたが、FUJIFILM X100V のセンサーとレンズは、そんな気分を見事に映像にしてくれたと思います。
梅林の中に、小さなお茶処がありました。フィルムシミュレーションはクラシックネガを使って撮りましたが、夕方のすこし寂しい感じが懐古的に表現できたと思います。ノスタルジー感をより強調する為に、グレインエフェクトを使って撮れば良かったと、後から気付きました。
ちょうど小腹も減ったので、白玉しるこをいただきましたが、美味しかったです。FUJIFILM X100V は、フィルムカメラに近い感覚で撮れる為か、写真を撮る相棒といった愛着を抱きやすいカメラです。白玉しるこの甘さと、カメラ、写真が、紐づけされて記憶された気がします。
神社の境内に、鶏がたくさんいました。鶏は神聖な鳥なので、神社で飼っているようです。木の上にいる鶏というのも、あまり見かけないので面白く思いシャッターを切りました。FUJIFILM X100V なら、いつでも首からぶら下げていても億劫にはならず、撮りたい!と思った瞬間いつでもカメラを向けられるので、カット数はいつもより多めになりました。
今回のメインの被写体は梅の花でしたが、こう暖かいと次回は桜になってしまうかもしれません。梅の花は、桜ほど密集していないので、背景を工夫しながら撮る楽しさがあります。
FUJIFILM のカメラは少し前だと、このカットのように手前に浮いた被写体を撮る際、後ろにピントが抜けてしまう事が多々あったのですが、X100V ではほとんど(今回の撮影では1回だけありました)無くなりました。ちょっとした街歩きや旅行の際に写真を撮る場合、オートフォーカスが思ったとおりにならない事で撮影に時間がかかる事が大きなストレスとなりますが、X100V はそんな心配は少なそうです。
開放と絞った時で画の感じが変化するタイプのレンズだったので、開放f2と少し絞ったf5.6のカットをそれぞれ拡大して描写を見てみます。
《f2.0(開放)での描写》
細かいところまで写ってはいるのですが、靄に包まれたように非常に柔らかい描写です。敢えて背景が多くフレームに入るように切り出しましたが、背景ボケの美しさはちょっと類を見ないレベルで、個人的にはかなり好きなボケ方です。次にf5.6まで絞った画像を見てみます。
《f5.6での描写》
同じレンズとは思えない程シャープで、解像感も十分以上です。2面性を持っているという事は、もしかしたらレンズとしては欠点なのかもしれません。が、写真をアートと考えるならX100Vのレンズは創作意欲を掻き立てられる、むしろ使い出のあるレンズと言えると思います。個人的にかなり好きな写りです。
正直言って、X100シリーズユーザーなら、ティルト液晶モニターの採用だけでも X100V への買い替えを検討してもいい!と断言したいくらい、私はティルト液晶モニターが好きです。しかも、X100V のティルト液晶モニターは非常に薄いデザインで、カメラに収納した際、カメラのデザインを殆ど損なう事が無いのも、重要なポイントだと思います。
ローアングルやハイアングルなど、アイレベルでは不可能なアングルでの撮影に不可欠な、チルト式液晶モニターの採用は、X100シリーズをよりクリエイティブなカメラにしてくれていると思います。
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個人的にFUJIFILMのカメラが好きですが、その中でも、かなり好きなカメラです。フィルムシムレーションを主軸にした写りの多彩さ、柔らかく創作意欲を掻き立てるレンズ、適度な大きさと、X100VはFUJIFILMらしさ満載のカメラです。
クラシックなデザインも秀逸で、それだけでも写真を撮るのが楽しくなりそうで、いつでもカバンの片隅に入れておいて、思った時に使いたい、そんなカメラです。オートフォーカス性能の向上やティルト液晶モニターの採用など、写真を撮る、表現する事に直結する、基本的な部分が改善されているのも好感触です。
特に惚れた!と感じたのはやはりレンズで、開放の柔らかさには惚れ惚れしました。絞ると急激に像が立ち上がるのは、レンズとしては短所と言えるのかもしれませんが、シャープに撮るのか柔らかく撮るのかのギャップを表現として使えるので、むしろ歓迎すべき事に思いました。
散歩や旅行のパートナーとして、持って歩くのが楽しくなるカメラだと感じました。