なかなかセクシーなフォルムのNOKTON 50mm F1 Aspherical(ソニーEマウント)
レンズ第1面に研削非球面レンズ(GAレンズ)を採用
NOKTON 50mm F1 Aspherical (Eマウント)の描写を作例とともにチェック
作例に使用したカメラ
作例に使用したレンズ
まとめ
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)など多数。最新刊『赤城カメラ 偏愛だっていいじゃない』(インプレス)が発売中。
新発売のフォクトレンダーNOKTON 50mm F1 Aspherical (Eマウント)はSONYαに採用されている Eマウント互換のMF交換レンズです。
ソニーα7CRに装着してみました。ボディが小型なので、レンズが目立ちますが、本機はグリップがしっかりしており、見た目ほどホールディングバランスは悪くありません。
基本的な光学設計は、すでに発売されているMマウント互換のNOKTON 50mm F1 Aspherical VMをベースとした、キヤノンRFマウント、ニコンZマウントと同様のものですが、コシナ・フォクトレンダーのミラーレス機用の交換レンズは、マウントごとに違いのあるセンサー前のカバーガラスの厚みの規格に合わせて、描写が最適化するように設計のチューニングが行われています。このストイックともいえる姿勢には驚いてしまいますが、コシナはこのような丁寧な対応によって、性能の信頼を勝ち得ているのでしょう。
最短撮影距離は0.45mです。50mmレンズによくある距離ですね。極端に短くしなかったのは、描写に影響を与えないようにという配慮からでしょうか。
デザインはEマウント径にあわせて、マウント基部にいくにしたがってくびれがあり、なかなかセクシーなフォルムとなり、ビルドクオリティやフォーカスリングのロータリーフィーリングもさすがの心地よさです。
Eマウント径は大きくないのでレンズの基部にくびれができます。これはこれでデザイン的に悪くありません。かつてのヤシカコンタックスマウントのプラナーT*85mm F1.2の鏡筒に似ていますね。
絞り環を押し込みながら180度まわすと、デクリック(クリック解除)になります。動画撮影用として、あるいは細かく絞り設定を行いたい人のためにあります。
ソニーに限らず、昨今のミラーレス機用の交換レンズは指標や目盛りが少なく、味気がない。これは実用的な意味とは関係なく、デザイン的な問題です。
でも本レンズは佇まいをみても楽しいのです。もちろん仕様からみて、小型軽量ではありませんが、ここで使用したα7CRでも、バランスはさほど悪くありません。少なくとも撮影時にはストレスを感じませんでした
α7 IVに装着してみました。全体のホールディングバランスに安定感を感じます。
α7 IVに装着して横からみてみます。カメラボディの指がかりなど問題はなく、フォーカシングもやりやすいので安心しました。
ソニーαのEマウントには、サードパーティからもマウントアダプターが豊富に用意されています。
当然、Mマウント互換のNOKTON 50mm F1 Aspherical VMもアダプターを介してα各種ボディに装着すれば撮影を愉しむことはできますが、今回登場したEマウント専用設計のタイプと比較すると、描写の特性が異なる可能性があるわけですね。
本レンズにはコシナ自社設計・製造の研削非球面製造技術を使用したGA(Ground Aspherical)レンズが採用されています。
モールド製造が確立されてからコストが非球面レンズは大幅に価格が下がり、現在では広く普及し、廉価なレンズにも非球面は採用されています。
この状況で、現代において研削非球面レンズを使用するとは、まるで時代を巻き戻したかたのような仕様のようにも感じますが、研削非球面レンズは多種類の硝材を使えるメリットがあるということで、本レンズのような特別な超大口径の仕様には性能の向上、安定が期待できることから、採用するメリットがあるそうです。
ただ、過去の研削非球面レンズは加工の難しさ、製品数の少なさから珍重されたり、ディスコンになってからもプレミア価格で取引きされたりしているものも少なくありません。非球面レンズは昔から高価なものだったわけです。
研削非球面レンズは現在でもその加工と製造については時間がかかるため、コスト高につながるので製品は高価になります。
その昔は“手磨き”と称してベテラン職人の技を必要とし、今でもそれをありがたがる人も多いのですが、実際は個体差を生じる原因にもなりました。
黎明期の研削非球面レンズよりも現在の研削非球面レンズのほうが、はるかに精度の高い加工が行われており、性能の安定化がはかられていることは言うまでもありません。
では具体的に本レンズの描写をみてゆきましょう。フィルム時代の大口径レンズは単純に低照度下にて撮影を可能にするという目的のために用意されたのですが、デジタル時代のいまは、開放絞り値近辺での極端に浅い被写界深度を利用したり大きなボケ味を作画に応用するために使われることが多いと思います。
またデジタルでは電子シャッターを使用できるものも多く、1/10000秒よりも高速のシャッタースピードを得ることのできるモデルもありますから、日中晴天下でも開放絞りが利用できることがあります。
撮影データ:ソニーα7 CR・フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1.0・1/400秒・ISO100
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暗い曇天で、エッジを強調するような光には一切期待できない日でした。絞り開放で最短撮影距離。球面収差が増大する条件ですが、ハイライトの滲みの少ない描写です。背景はうるさい枝がありましたが、ボケでふっとばした感じです。
撮影データ:ソニーα7 CR・フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1.0・1/500秒・ISO100
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こちらは雨の暗い日の撮影です。合焦点の描写はすばらしくよいですね。撮影距離は2mほどですが。至近距離での描写よりも若干鮮鋭性は高いようです。
撮影データ:ソニーα7 CR・フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1.0・1/320秒・ISO400
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鉄のオブジェ。全体的なディテールを出すには少し絞るべきだったかとも思いますが、モチーフは浮き立ちました。背面からのLED照明に対応してフリッカー軽減機構を使用して撮影しています。
撮影データ:ソニーα7 CR・フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1.0・1/200秒・ISO100
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レトロなデザインの室内照明。撮影距離は3mほどなのですが、それでも背景は大きくボケます。安定した描写です。
でも筆者の場合は明るいレンズだから必ずしも開放絞りでしなければならないとは考えていません。絞りの選択で変わる画の印象を被写体に当てはめることで、より作画の自由度が広がると考えていますし、大口径レンズは絞りの選択が増えるのが嬉しいですね。
本レンズは開放絞りから合焦点はかなりシャープです。拡大するとハイライトにわずかな滲みがある程度です。明暗差の大きな場所ではフリンジも確認できますが、軽微なので、画像処理で補正も可能です。
撮影データ:ソニーα7 CR・フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1.0・1/2000秒・ISO100
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撮影距離は0.7mほどですが、背景は絵の具を溶かしたように大きくボケてしまいます。この状況でも合焦点はとてもシャープです。フローティング機構が効いているようです。
撮影データ:ソニーα7 CR・フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF8・1/250秒・ISO100
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絞り込んでみると、きわめて高品位で全画面にわたりシャープな描写が約束されます。開放絞りの描写もいいのですが、絞りの選択肢が増えるのはとても嬉しいですね。
撮影データ・ソニーα7 CR・フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1.0・1/4000秒・ISO100
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逆光で至近距離、開放絞りでの撮影。背景の金網のボケが汚くなるかと思いましたが問題のない再現性です。葉の輪郭の再現も好感がもてます。
撮影データ・ソニーα7 CR・フォクトレンダー NOKTON 50mm F1 Aspherical
絞りF1.0・1/125秒・ISO100
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CP+2024のコシナブースにて。会場の照明のみで撮影しました。女性ポートレートとしては難しい条件ですが、大きなボケで背景は省略されました。肌再現も悪くありません。
ボケは見事なほどクセがありません。低周波成分の多い被写体でも、二線ボケを確認することは稀でした。撮影条件によりますが、開放時には少々周辺光量は落ちますが、どすんと暗くなるわけでもなく、グラデーションフィルターのようになだらかに品の良い落ち方をします。
MFのフォーカシングは、手間だと考える人もいるかもしれませんが、 αボディでは、フォーカスリングの回転と表示画像の拡大を連動させることができるので、使いやすいですね。大口径レンズはフォーカシングの位置、すなわち撮影者が見たいところ、伝えたいところが明確になります。このことを考えながらフォーカシングを愉しみたいものです。
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NOKTON 50mm F1 Aspherical E-mount
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Photo & Text by フォトグラファー 赤城耕一