目次
特徴/操作性
F1.4の大口径フィッシュアイレンズ
星が周辺部まで点に写る高い描写性能
星景を意識した各種機能
星景向けの各種機能
F1.4とF2.8の比較
MFLスイッチ
レンズヒーターリテーナー
リアフィルターホルダー
実写レビュー
夏の天の川を写すのに最適!
F1.4の明るさとブライトモニタリングでフレーミングがしやすい
背景をボカす事もできる
ピントリングの動作は扱いやすい
シャープなレンズなので星座の形を見せたい時はソフトフィルターを
画質
周辺部画質とサジタルコマフレア
解像感
フレア/ゴースト
旧モデル、他製品との比較
SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYEとの比較
LAOWA 15mm F2 Zero-Dとの比較
メリット・デメリットとおすすめユーザー
これ以上は無い最高のフィッシュアイレンズ
価格とマウントのバリエーションが無い事がデメリット
星景写真や本格的な天体写真を撮るユーザーにおすすめ
作例に使用したカメラ
SONY α7R V
作例に使用したレンズ
SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Art
まとめ
SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Art のいちばんの特徴はフルサイズに対応したフィッシュアイレンズとしては非常に明るい開放F1.4である事です。
一般的に明るいと言われるF2.8より2段階シャッタースピードを遅くしても同じ明るさに撮れるF1.4は、星の日周運動により露光時間に制限のある一枚撮りの星景写真では強力な武器になります。
いままでは撮れなかったようなシチュエーションで撮れるようになる事は勿論、感度を低くしてよりクオリティの高い撮影ができるなど明るさによるメリットははかり知れません。
星を本格的に撮る方はレンズ性能に最も神経質なユーザーかもしれません。
特に画面周辺部で星が変形してしまうサジタルコマフレアは、なんとしても星を「点」として写しとめたい星景写真家にとっては可能な限り少さくしたい収差です。
SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Art は、サジタルコマフレアを特に小さくするように設計されており、星を目で見たような鋭い点として写す事ができます。
星の写真は一般的な撮影とは違った注意点が多く、慣れが必要な被写体です。
暗闇でカメラやレンズの操作をしなければならない事は勿論ですが、夜間気温が低下するとレンズが曇る、ピント合わせがシビア、レンズ先端にソフトフィルターを取り付けると星が伸びる、といった星景ならではの注意点もあります。
15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artには、こういった手間や問題を回避する機能が搭載されており、まさしく星景撮影用に開発されたレンズと言っても過言ではありません。
F1.4で撮影
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F2.0で撮影
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F2.8で撮影
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作例は200ルール(200÷焦点距離=星が流れない限界のシャッタースピードとする考え。この方法だと焦点距離15mmのレンズは、約13秒まで星が流れない事になる)にのっとり、シャッタースピードを13秒、ISO感度を3200に固定し、上からF1.4→F2.0→F2.8と絞りだけを変えて実際に写真の明るさがどのくらい変わるかを比較した画像です。
夏の天の川は比較的明るい被写体ですが、F2.8の撮って出しでは殆ど天の川が見えません。比較するとF1.4である事がどれだけ有利かおわかりいただけると思います。
F2.8でF1.4と同じくらい明るく撮ろうと思うとノイズ覚悟でISOを12800にするか、赤道儀を使って1分近いスローシャッターを切る必要があり、F1.4である事が写真の成否を決めるくらい重要な要因となるのです。
星のピント合わせはマニュアルフォーカスでしなければならずシビアなので結構大変です。しかし、星のピント位置は基本的に全て同じなので、一度ピント合わせをしてしまえばピントをずらす必要はありません。
そこでSIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artにはピントを固定する為の「MFLスイッチ」が搭載されています。
これにより一度ピントを合わせて固定してしまえば、時間をかけて何度もピント合わせをやり直す必要はありません(実際にはレンズの温度変化などで微妙にピント位置がズレる事もあるようなので、たまにピントがズレていないかを確認する方が良いと思います)。
レンズの温度が外気よりも低くなると結露してレンズがクモってしまいます。特に撮影地の地面が土の場合は湿気が多く、必ずと言ってもいいほどレンズはクモるので、レンズヒーターの取り付けは必須です。
フィッシュアイレンズは非常に画角が広いので、レンズヒーターを巻く位置を間違えるとヒーターが写ってしまう事故がおきかねません。
レンズヒーターリテーナーはこういった事故を防ぐ為のレンズに設けられた段差で、レンズヒーターがレンズ側に飛び出してしまうのを防ぎます。
SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artにはには、レンズ後端にシートタイプのフィルターを装着できるようフィルターホルダーが設けられています。
広角レンズではレンズの前面にソフトフィルターを取り付けると画面周辺で星が楕円形に伸びてしまうので、ソフトフィルターはレンズ後端、又はセンサー前面に取りつけるのが理想ですが、それに対応する為の機能です。
余談ですが、現在レンズ後端に取り付けるシートタイプの良いソフトフィルターが無く星景写真家の方は困っているようですが、近々Kenkoから新しいシートタイプのソフトフィルターが発売されるようなので楽しみです。
作例1:F1.4 13秒 ISO3200 露出補正±0
RAWデータをPhotoshopで画像処理
AIによるノイズ除去
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夏の天の川は、天の川の中で最も明るい部分なので、風景とからめて撮る「星景」にピッタリの被写体です。
慣れれば目で見つけるのも比較的簡単で、風景の明るさに負けない存在感を放つので、フィッシュアイの画角の広さを活かて撮るのにピッタリと言えるでしょう。
3月~4月の明け方に東の空に昇って来る天の川は、横に寝た姿を海とからめて撮るのがおすすめですが、ある程度高い位置に来る頃には薄明が始まるので時間との勝負です。作例でも左側が明るく薄明が始まっているのがわかります。
作例2:F1.4 4秒 ISO3200 露出補正±0
RAWデータをPhotoshopで画像処理
AIによるノイズ除去
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作例を見ると手前の船はかなり明るいように見えますが、実際には船体がうっすら分かる程度に暗い場所です。
目に見えない状況を想像したり、テストで数枚撮ってからフレーミングしていく星景写真は、撮影時に写真をつくっていく作業が楽しいのですが、失敗も多く慣れの必要なジャンルだと思います。
作例でも左側の街灯の光を拾ってしまってゴーストが発生してしまいました。超広角やフィッシュアイはゴーストが発生しやすいので注意が必要です。
作例3:F1.4 10秒 ISO3200 露出補正±0RAWデータをPhotoshopで画像処理
AIによるノイズ除去
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SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artの明るさとSONYのブライトモニタリングのおかげでフレーミングしやすい点も大きなメリットです。
モニター上でも天の川がうっすらとわかり、特に夏の天の川にはさそり座という特徴的な形の星座があるので、それを頼りに構図を決めて行きます。
水平を出すのが難しいフィッシュアイレンズですので、カメラの電子水準器を利用しました。
作例4:F1.4 13秒 ISO3200 露出補正±0RAWデータをPhotoshopで画像処理
AIによるノイズ除去
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夜の写真で重要なポイントのひとつはストレス無く撮影できる事です。
SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artは明るいF値やヒーターリテーナー、MFLスイッチなど撮影の失敗を防ぐ機能が搭載され、不自由な中での撮影をサポートしてくれます。
それでも撮影者の技量を全て補えるわけでは無く、作例ではゴーストが入ってしまいました。超広角やフィッシュアイはゴーストが入りやすい事を理解してはいたのですが、やる事が多いと失敗も多くなりますね。
作例5:F1.4 8秒 ISO3200 露出補正±0RAWデータをPhotoshopで画像処理
AIによるノイズ除去
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フィッシュアイというと画面全体にシャープにピントが合ったパンフォーカスの写真を思い浮かべる方が多いと思いますが、F1.4の明るさと38cmの最短撮影距離を使えば背景をボカす事も可能です。
作例は天体写真を撮る方がよくやる天体望遠鏡と星座のツーショットですが、背景を広く入れられてなおかつ星をボカす事ができる明るいフィッシュアイレンズは、こういった写真には最適と言えるでしょう。ボケて星が大きくなると星座の形がわかりやすくなるのもポイントです。
最近は自慢の愛車と星座や天の川といった写真をSNSでよくみかけますが、そんな写真を撮りたい方にもおすすめのレンズと言えます。
作例6:F1.4 10秒 ISO3200 露出補正±0RAWデータをPhotoshopで画像処理
AIによるノイズ除去
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SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artのマニュアルフォーカスは、リニアなフィーリングで扱いやすいもので、シビアなピント合わせもストレス無く行えました。
ところで、SONYのカメラはマニュアルフォーカスの際ピント位置がメートルで表示されて便利なのですが、今回のテスト撮影では6~11mくらいの表示が出る場所で星にピントが合いました。
あまり表示を宛にせずにモニターなりファインダーなりできちんと星像を確認しながらピント合わせをするのが良いと思います。
作例7:F1.4 10秒 ISO3200 露出補正±0RAWデータをPhotoshopで画像処理
AIによるノイズ除去
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SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artは非常にシャープなレンズなので、そのまま撮ると少したんぱくな写真になってしまいます。そんな場合はレンズ後端のフィルターホルダーを利用してソフトフィルターを使う事をおすすめします。
ソフトフィルターを使う事で、明るい星をより大きく強調して写す事ができるからです。
今回の撮影ではソフトフィルターは間に合いませんでしたが、特に冬の星座は明るい星も多いのでソフトフィルターの利用は効果的です。
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驚いた事に、絞り開放でもサジタルコマフレアは殆ど発生しません(画面の四隅ギリギリの場所にわずかに発生しています)。
SIGMAには星景を意識した高性能な広角レンズが数本用意されていますが、それらと比較しても良好な周辺描写です。
絞りによりサジタルコマフレアが改善していく様子をお見せしたくて絞りを変えて複数の作例を撮っておいたのですが、開放から非常に良好な描写性能だったので無駄になってしまいました。
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非常に高い解像度を持ったレンズで、フルサイズミラーレスの中でもトップクラスの画素数を持つSONY α7R Vでも十分な描写性能を持っています。
一般的な写真よりもシビアな性能が求められる星景写真を念頭に設計されているので、当たり前と言えば当たり前かもしれません。
フィッシュアイレンズは描写性能の良し悪しを言われる事が少ない気がしますが、テストしてみると性能に思った以上にバラツキがあります。そんなフィッシュアイレンズの中で現時点で最高と言える高性能レンズです。
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180°という広い画角を持つフィッシュアイレンズは、フードを使ってレンズ前面に直接光が当たるのを防ぐ事が出来ない為、どうしてもゴーストが出やすくなってしまいます。
SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artもこの特性を完全に克服する事はできておらず、特に点光源が近くにある状況ではゴーストが発生してしまいました。
一般的な星景写真で周囲に点光源があるシチュエーションは少ないと思いますが、街灯などがある際には注意が必要です。
性能的に定評のあるSIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYEですが、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artと比較して2段暗い事は、一度F1.4のレンズを使ってしまうと物足りなく感じます。
RAWデータやノイズ除去など、画像処理である程度補う事はできますが、もともとのデータで差がついている事に変わりありません。
赤道儀を使わない一枚撮りの星景写真ではF1.4は大きなインパクトです。
LAOWA 15mm F2 Zero-Dは明るいF値の超広角レンズとして星景写真でも人気のレンズです。
このクラスとしてはリーズナブルな価格も魅力で、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artと比較すると半部くらいの価格で購入できコスパの高さも魅力となっています。
フィッシュアイレンズでは無いので比べるのもどうかと思いますが、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artの下位互換的なレンズとして使えるかもしれません。
F1.4という明るさ、周辺部まで星を点として写せる高い描写性能は、SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artを選択する大きなメリットです。
一般的なフィッシュアイレンズよりも2段明るい事で、固定撮影でもより多くの星を写す事ができますし、天の川のような淡い天体も濃く、はっきりと写す事ができるでしょう。
今回のテスト撮影でも、これだけ広い画角でF1.4という明るさは初体験でなかなかインパクトがありました。
デメリットは、用途が限定されるレンズながら高額である事と、マウントのバリエーションが少ない事です。
ユーザーが限られるレンズですし非常に高いレベルの描写性能を持っているので価格については仕方が無い事だと思いますが、マウントについてはやはりユーザーの多いCanon RFとNikon Zマウントは是非ラインナップに加えて欲しいと感じました。
これだけの高性能レンズですので、より幅広いユーザーに体験して欲しいと感じます。
SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artは、非常に高い描写性能を持った星景写真用ベストレンズのひとつだと感じました。
特にサジタルコマフレアの小ささは特筆すべき点で、多くの星景写真家が絶賛できるレベルにあるのではないでしょうか。F1.4という唯一無二のスペックも使い勝手や画質の面で大きなアドバンテージとなります。
本格的に高画質な星景写真を撮りたいユーザーにおすすめしたいレンズです。
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Photo & Text by フジヤカメラ 北原