はじめに
グローバルシャッター方式を実感
120コマ/秒の高速連写
1/80000秒の高速シャッター
プリ撮影
感度の特性
低速シャッター時の連写
デザインについて
作例に使用したカメラ
SONY α9 III
作例に使用したレンズ
SONY FE 14mm F1.8 GM
SONY FE 35mm F1.4 GM
SONY FE 16-35mm F2.8 GM II
SONY FE 70-200mm F2.8 GM OSS II
SONY FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
SONY FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS
SONY 1.4X テレコンバーター
まとめ
1987年兵庫県出身 日本大学芸術学部写真学科卒業
2023年 独立
幼い頃からの鉄道好きがきっかけで写真と出会い、今度は写真作品制作の舞台として鉄道と関わるようになる。幾何学的な工業製品あるいは交通秩序としての鉄道を通して、人や自然の存在を表現しようと制作活動を行なっている。
カレンダー、CM撮影などに携わるほか、鉄道誌、カメラ誌等で撮影・執筆・講師を行う。
αアカデミー講師
株式会社オフィスヤマシタ代表
日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員
個人展示
2018年 αプラザ写真展「鉄路の瞬(またたき)」札幌・大阪・名古屋
2018年 個展「SL保存場」富士フォトギャラリー銀座
2019年 αプラザ写真展「鉄道+α」福岡
2019年 αプラザ写真展「鉄道の美しいところ」大阪、福岡、札幌、名古屋
2021年 個展「描く鉄道。」オリンパスギャラリー東京・南森町アートギャラリー
2022年 αプラザ写真展「鉄道ビジュアリズム」大阪、福岡、札幌、名古屋
ウェブサイト:http://www.daisuke-yamashita.com
SNS:https://www.instagram.com/yamadai1987/
SONY α9 III・FE200-600mm F5.6-6.3 G OSS ×1.4Teleconverter
絞りF9・1/2500秒・ISO1600・WB太陽光
トンネルを飛び出してきたE5系新幹線。120コマ/秒連写、AFによるピント追従撮影である
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
フルサイズミラーレス一眼として、ついにグローバルシャッター方式を採用したSONY α9 III。2023年秋に発表を聞いたときは、まさに目から鱗。このようなカメラが世に出るのは、きっともう少し先だろうと思っていたからだ。なんとなくSONYあたりが最初にやりそうだとは思っていたが、ここまで早く、しかも100万円を切ったモデルで実現してくれるとは嬉しい誤算であった。
鉄道写真やその他の動体撮影のカメラマンにとって“動体歪み“はデジタル化以前から当然に存在する必要悪のような存在であった。私は大学で学んでいた頃、授業で見せてもらった写真家ラルティーグの写真を思い出す。1912年に自動車レースを撮影したその写真には、斜め上に引っ張られるようにタイヤが歪んだ車が写っていた。そしてカメラを振りながら撮ったのだろう、背景の観客も斜めになって写っていた。ラルティーグはその歪みを楽しんで撮影していたそうだが、これが幕速による動体歪みであったのだ。
その後フォーカルプレーンシャッターが主流になって幾分か歪みが少なくなっても、幕を使うシャッターである以上は、基本的に動体歪みがなくなることはなかった。さらに時代が進み、電子シャッターの台頭した現代でも“ローリングシャッター歪み“と呼ばれる動体歪みの問題がいまだ残っていた。そしてこのことはシンクロ同調速度の向上にも足かせとなり続けてきた。
グローバルシャッター化でこの問題が解決した。鉄道写真で言えば、これまで車両が少なからず歪んで写っていた多くシーンで、正しい形で写せるようになった。どれほどブレイクスルーな出来事か想像に難く無い。
では具体的にどのように写りが変わってくるのか、そのちがいを見てみよう。
下の2枚の写真は、α9 IIIとα1を並べて、まったく同じ列車を同時に撮影した写真だ。レンズのモデルこそ違うが、焦点距離や構図もほぼ同じにした。ローリングシャッター方式のα1も他機種に比べると歪みが少ないほうではあるが、それでもこのように真横から列車をアップで撮る際には歪みの発生が隠せないのである。それに対してα9 IIIは本当にグローバルシャッターなんだと実感。車両を正しい形で写すことができる。この写りの違いは、モノが動いている以上は多少なりとも生まれる差異で、ローリングシャッターでは動体は常に歪んで写っているということを自覚することにもなった。
SONY α9 III
FE200-600mm F5.6-6.3 G OSS
絞りF6.3・I1/8000秒・SO2000・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
SONY α1
FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
絞りF6.3・1/8000秒・ISO2000・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
上:α9 IIIと下:α1で同時に撮影。ほぼ同倍率で撮っている。車両の垂直方向の形状に注目いただきたい。α1では少し右へ傾いているように見えるが、これが動体歪み。α9 IIIは垂直ラインがきちんと垂直に写っている
(大湊線 有戸-吹越)
SONY α9 III・FE200-600mm F5.6-6.3 G OSS
絞りF6.3・1/16000秒・ISO2000・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
SONY α1・FE200-600mm F5.6-6.3 G OSS
絞りF6.3・1/16000秒・ISO1600・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
上:α9 III、下:α1。新幹線は先頭部が流線形のため何となく歪みがわからなくて済みそうだが、在来線とちがって時速200キロオーバーのため、ドアや窓などの垂直ラインを見ると違いは顕著である
(東海道新幹線 新横浜-小田原)
SONY α9 III・FE 70-200mm F2.8 GM OSS II
絞りF8・1/4000秒・ISO400・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
日常的に鉄道撮影に貢献するのが連写速度の速さ。α9 IIIは先代モデルから格段に飛躍した最高120コマ/秒。しかもAF /AE追従だからすごいとしか言いようがない。作例のような標準~中望遠でねらう新幹線の左向き写真も、AFを追従して撮影が可能な上、フレームアウトギリギリのコマを選択できる
(東北新幹線 八戸-七戸十和田)
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
これが上の作例を撮影した際のファインダーの様子(スマートフォンでファインダーを撮影)。トンネルから出てきた新幹線を被写体認識で素早く捉え、この時すでに合焦・追従し連写中である
SONY α9 III・FE 16-35mm F2.8 GM II
絞りF4・1/16000秒・ISO1600・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
ワイドな画角で特急列車を捉えた作例。こちらは置きピン120コマ/秒の撮影だ。四角い車両なので歪みの無さも清々しいが、こだわりは背景にある。背景に写る白い民家を列車で隠して、さらに木の輪郭に列車の輪郭が重ならないところを狙った。通常、画面の端との距離関係であれば、アバウトに撮ってトリミングでフォローできなくもないが、このようによりピンポイントの切り位置を求める場合は、速い連写でなければ難しい。それがわかる前後コマを次に示そう
(総武本線 物井-佐倉)
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
こちらは前述の前後コマである。1枚目では背景に白い民家が見えて目立つ存在になっている。2枚目では列車の輪郭が背景の木と重なり、決して悪くはないがやや抜け感が削がれる。その間のひとコマが先ほどの写真というわけだ
グローバルシャッター方式によってシャッター速度上限は1/80,000秒という超高速シャッターが切れるようになった。電子先幕シャッターなどではおよそ1/8,000秒が上限だったのが、文字通り桁が違う世界である。ただし単写撮影になる制限があるため鉄道撮影ではあまり使う機会はないと思われる。連写の場合は1/16,000秒が上限となり、いずれにしても十分なシャッター速度は切れる。
SONY α9 III・FE200-600mm F5.6-6.3 G OSS
絞りF6.3・1/80000秒・ISO10000・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
1枚切りで高速走行中の新幹線先頭部を撮影。この位置に止めることができたのはやや偶然ではあるが、見かけの速度はとんでもない速さのため、1/8,000秒でもブレてしまうようなシーンだ
(東海道新幹線 新横浜-小田原)
近年一般的になってきたプリ撮影機能が満を持してαシリーズにも登場した。プリ撮影を開始するトリガーは、シャッターボタン半押しかAF動作にアサインされたボタン操作、またはその両方で選択ができる。プリ撮影の枚数は時間による管理で、最大約1秒分が記録され、0.1秒ずつ減らす設定が可能だ。シャッター全押し以降のバッファを確保しておきたい時はプリ撮影時間を短くしておくといいだろう。
SONY α9 III・FE 70-200mm F2.8 GM OSS II
絞りF2.8・1/6400秒・ISO800・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
プリ撮影は、列車の接近こそ感知できるが姿が見えてから反応したのでは切り遅れるという場面に便利。あくまでシャッター全押しまでにトリガー操作をしておく必要があるため、シャッターの瞬間を予見できなければいけない
(東海道新幹線 静岡-掛川)
新しいセンサーのため、見慣れないISO250が常用感度の下限である。α7シリーズのISO100を多用するユーザーにとっては、この1.3段の差は決して軽視できないポイントである。私の場合は低速の流し撮り時に不自由さを感じる。NDフィルターの出番もやや多くなってくるだろう。また高感度側はISO3200くらいまでは、α1などとそれほどのノイズの差を感じずに使うことができるが、ISO6400くらいからは感覚的にノイズが目立ってくる。現像ソフトで抑え込むことを想定してもいいような印象だ。そういった高感度特性をフォローするためか、コンポジットRAW撮影という機能がついている。これはワンショットで4~32枚を連続撮影後、Imaging Edge Desktopで合成処理してノイズを抑えるもので、1/30秒以上のシャッター速度に制限されるものの、手持ちや人物撮影など多少の動きがあっても使える。将来的にカメラの処理速度や連写速度がさらに速くなると、このような処理をカメラ内で的確に行なって高感度を担保することになっていくかもしれない。そのように感じる部分もある
SONY α9 III・FE 14mm F1.8 GM
絞りF1.8・1/3秒・ISO6400・WB4000K
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
ISO6400で撮影。Lightroomで通常のノイズ低減で調整して現像している。まだまだこれくらいなら鑑賞に差し支えない。それはそうと、この写真は1/3秒のシャッターを手持ち撮影している。手ブレ補正の効きは大したものである
(東北本線 金谷川-南福島)
SONY α9 III・FE 35mm F1.4 GM
絞りF11・1/80秒・ISO25600・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
SONY α9 III・FE 35mm F1.4 GM
絞りF11・1/80秒・ISO25600・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
上の写真がコンポジットRAWで4枚撮影して合成処理したもの、下は通常の単写したもの。感度はISO25600で手持ちだ。確かに単写のノイズ状況からは低減のあとがみえる
(IGRいわて銀河鉄道 いわて沼宮内駅)
120コマ/秒の高速連写に注目が集まり、意識する人が多くないかもしれないが、α9 IIIの連写速度は低速シャッター時にも優位性があるようだ。まだ公式に確認したわけではないが、私がα1とα9 IIIを同条件に調べた結果、1/30秒のシャッター速度を下限にα9 IIIの連写の方がα1より速かった。α1は圧縮RAWの条件では30コマ/秒の連写性能を持つが、当然シャッター速度が1/30秒で30コマ/秒撮れるわけではない。コマ間に一定のブランクが生じることになるためだ。このブランクがα9 IIIでは極めて少ない。
実はこれは鉄道撮影では結構嬉しいことだ。低速シャッターを用いる流し撮り時は、狙った背景で写し止められる可能性が高くなるし、列車をブラすような表現にも連写を活用しやすくなるだろう。
このことはあくまでHi+モードが使える1/30秒までで、調べた限りでは1/25秒以下になると両機の連写速度は互角であった。逆にいうと、それはそれでやや残念なポイントかもしれない。
SONY α9 III・FE200-600mm F5.6-6.3 G OSS
絞りF36・1/30秒・ISO160・WB太陽光
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
1/30秒までは従来機より連写速度が速いようだ。前景をブラした表現や背景との兼ね合いにこだわる流し撮りでも、確度が高くなるということだ。ISO感度は低感度側拡張設定のISO160。
外観はフルサイズα機を踏襲したデザインのため、大きなサイズや重量変化がない。これまでもそのように製品を出しているため驚かれにくいことかもしれないが、このことは実はとんでもなくハードルが高いことをやっているに違いない。特に大きな変革をもたらすα9 IIIだとそう感じる。これからも基本デザインは変わらずに使い続けることができるというユーザーの安心にもつながるわけだ。
その上で、4軸マルチアングルモニター化やC5ボタンの増設など、使い勝手の良さは先代からの改良点が多い。シャッターボタンもやや前方に傾斜して高い位置に置かれるようになった。それにともない、右手人差し指全体がカメラに沿うようなアール面が付いて、フィーリングは大きく変わったと言えるだろう。
今回シャッターとしての役割を終えた物理的な幕は、見た目はまるでシャッター幕のようなセンサー遮光幕として存在する。電源OFF時に閉じる設定が可能だ。
マウント取付部のオレンジ色が側面からは見えにくい意匠に変更されている
4軸マルチアングルモニターの採用で縦位置の撮影の自由度が増す
» 詳細を見る
» 詳細を見る
» 詳細を見る
» 詳細を見る
» 詳細を見る
» 詳細を見る
» 詳細を見る
» 詳細を見る
グローバルシャッター方式の採用で、カメラの新時代到来を予感させるα9 III。今回試せなかったが、ハイスピードシンクロでの連写撮影などで恩恵を受けるユーザーもいるのでは無いだろうか。なんせシンクロスピードの常識から解放されたのである。
鉄道写真においては、高速列車を確実に撮りたいと願うユーザーにおすすめなのはもちろんのこと、走る列車を厳密に正しい形で撮りたいと思うユーザー、攻めたクローズアップで独創的に撮りたいユーザーなどにおすすめしたい。
高感度特性をはじめとする画質面については、これからじっくり吟味していく必要はあるが、この先グローバルシャッター化の流れは急速に広がっていくだろう。その流れに大きな一歩を踏み出すカメラであることは間違い無いだろう。
Photo & Text by 山下大祐