前編の風景撮影に続き、ポートレート撮影に挑戦
Xシステム用中望遠レンズ「XCD 2,5/90V」
ハッセルブラッド553ELX+CFV100Cに、CFレンズを装着して撮影
フィルム時代よりも見かけの被写界深度が浅くなる感覚がある
まとめ
作例に使用したカメラ
Hasselblad 907X & CFV 100C JP
作例に使用したレンズ
Hasselblad XCD 2.8/65mm
Hasselblad XCD 1.9/80mm
Hasselblad XCD 2,5/90V
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)、最新刊は『アカギカメラ 偏愛だっていいじゃない』(インプレス)。
907X+CFV100Cの組み合わせでポートレートを撮影してみました。像面位相差でのAFそして人物の場合は顔認識AFも使えるのでとても便利に感じました。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 1,9/80
絞りF2.0・1/2000秒・ISO400 モデル:佐藤 雨
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ハッセルブラッドCFV 100C/907X+XCD 1,9/80。絞り開放で撮影。レンズシャッター内蔵ですが、開放F値がF2というのは頑張っていますが、この撮影距離だと極端に大きなボケにはなりません。(モデル:佐藤 雨)
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 1,9/80
絞りF2.4・1/400秒・ISO400 モデル:佐藤 雨
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ウェットな描写です。品格があります。往時のハッセルで80mmといえば標準レンズの代表格の焦点距離ですが、本レンズも負けていません。
ただ、一般的なミラーレス機と異なり、ボディ形状がコロコロしており、ホールディングは独自のもので、撮影者側も少々工夫が必要になります。
フレーミングは原則ライブビューを使うことになりますから、手持ち撮影ではカメラと顔が離れ安定感が失われます。このため手ブレには十分に注意が必要になります。筆者は手持ち撮影時にはストラップを首にかけて、カメラを前に突き出すようにして、ストラップの張力を利用して、ホールディングの安定化をはかりましたが、徹底して高画質を追求したいときは三脚の使用はマストとなるでしょう。
今回使用したXCDレンズはXCD 4/45P、XCD 2,8/65、XCD 1,9/80、XCD 2,5/90Vです。
907X /CFV100C+XCD 4/45P
907X /CFV100C+XCD 2,8/65
907X /CFV100C+XCD 1,9/80
907X /CFV100C+XCD 2,5/90V
HASSELBLADの正統派ロゴが907Xのボディ上部にあるのですが、これを見ただけでも身が引き締まる思いになります。
907Xのシャッターボタンまわり。仕上げは綺麗ですね。ボタンのまわりのダイヤルも、各種設定や画像の送りなどに使用することができます。
907Xを裏側から、CFV100Cをセンサー側から見てみます。これを合体させることでカメラとして機能します。
顔認識でのAFはとにかくストレスを感じさせず、高画素機で撮影していることを忘れさせる利便性があります。筆者はポートレート撮影の場合はライブ感を重視しますからほとんど三脚を使用することがないので、これでX2D 100Cのように手ブレ補正が内蔵されていたら機能的には文句はありませんが、それはないものねだりというものでしょう。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 2,8/65D
絞りF2.8・1/800秒・ISO400 モデル:佐藤 雨
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絞り開放でも、まったく崩れのない画像。コントラストも良好。明暗差はそこそこあるのに階調が豊富ですね。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 2,8/65
絞りF3.4・1/800秒・ISO320 モデル:佐藤 雨
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65mmは万能的に使えますので、被写体とか撮影距離を選ばず信頼できます。筆者がいまいちばんお迎えしたいレンズです。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 2,8/65・絞りF4・1/350秒・ISO400 モデル:佐藤 雨
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こちらは、907X+CFV100Cでの撮影ですが、1:1の正方形トリミングをしてみました。問題ない高画質です。あらかじめ1:1に設定し撮影することもできますが、筆者は後でトリミングするほうが自由度があっていいと考えています。
手元にあった907X用のコントロールグリップとオプティカルビューファインダーを装着して、一部のレンズを使用するときに試してみました。
コントロールグリップに、オプティカルビューファインダーを装着。
ファインダーを覗けば、遮光効果もあり、ホールディングの安定感は増すのですが、フォーカスの合焦の確認はできないこと、どうしてもパララックスが生じてしまうので、不安になり、結局はライブビュー撮影を主体としてしまいました。
ただ、晴天屋外など明るい場所ではLCDは当然見にくくなりますから、本気でライブビュー撮影を行おうとするなら、LCDへの遮光を考えるなど撮影時の工夫は必要になるかもしれません。
今回使用したXCD交換レンズの中でも35mm判換算で71mmレンズ相当の画角になる2,5/90Vは、新型だけあり、小型かつ高機能で高性能で注目の一本でした。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 2,5/90V
絞りF2.8・1/500秒・ISO400 モデル:佐藤 雨
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絞り設定で性能は変わらないレンズですね。適度なコントラストで線も細いですね。口径食の影響でしょうか少し点光源の形がレモン型になります。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 2,5/90V
絞りF2.8・1/2000秒・ISO400 モデル:佐藤 雨
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ヌケのよい画質。合焦点のシャープネスは見事ですね。特別な大口径ではありませんが線のボケも素直です。
フォーカスリングをスライドさせるだけで、MFに切り替えることができます。スライド時には距離目盛りが出現して、あらかじめ鏡胴に刻まれていた被写界深度目盛りを合わせて利用しつつ、フォーカス位置を考えることができますが、焦点距離から考えると、さほど有用とは思えません。これはミラーレスの味気ない鏡胴に彩りを添えるデザインとしてみたほうがいいかもしれませんね。なお広角レンズのXCD 2,5/38Vもまた同様の機能を有しているので、街でのスナップ撮影でMFを活用したいというような場合などはこちらを選択するほうが使いやすいでしょう。
XCD 2,5/90VのフォーカスリングをスライドさせてMFに設定した状態です。距離目盛りが出現して賑やかになります。実用性というよりも鏡胴のデザインが綺麗でいいと思うのです。
また今回も、かつてポートレート撮影に頻繁に使用していたVシステムのハッセルブラッド553ELXに、デジタルバックとしてCFV100Cを組み合わせ、手持ちのいくつかのCFレンズを装着し、試用してみました。
ハッセルブラッド553ELX+CFV 100C+ディスタゴンT*CF60mm F3.5
ハッセルブラッド553ELX+CFV 100C+マクロプラナーT*CF120mm F4
純正の現行XCDレンズは全幅の信頼を寄せることができるわけですが、過去、Vシステムに用意されたツァイス(一部シュナイダーもあります)製のレンズはかなり古いものもあり、はたして1億画素のポテンシャルを活かすことができるのかという疑問もあります。
先に結論を申し上げてしまうと、イケる時もあればそうでもない時もあるというのが筆者の判断です。
なんだかあやふやですが、これは被写体までの撮影距離や被写体の条件、形状、光線状態、撮影条件などの要件によって変わるので、一概に申し上げることができないからですが、数値的な話よりも実際の使用において何が問題となるのか。これをいくつか要点をあげて検証してみましょう。
まずCFV100CとハッセルVとの個体の相性という問題がありそうです。あたりまえですがCFV100Cのセンサー面がピント面となるわけですが、CFV100Cのセンサー面が、カメラボディの基準となる定位置に装着できていないのではないかと思われるボディがあるのです。
ハッセルVのボディは長年メンテナンスしないでおくとミラーの位置か定位置にこなくなるという現象が起こることがあります。これも定期的にチェックするのが理想ですが、筆者もハッセルの使用頻度は次第に少なくなったこともあり、チェックするのを怠っていたわけです。
新たに説明する必要もないでしょうが、フィルムバック交換式ということを利用してCFV100Cを取りつけるのですが、ハッセルは長年使用しているとマガジンを受けるための下部のピンが曲がるなどして精度的に悪くなることもあります。
筆者が所有しているハッセルのVシステムボディは503CX、500EL/M、500ELX、553ELX、SWC/Mの5台ありますが、CFV100Cとの組み合わせて相性が良さそうなものはテスト撮影で3台ほどと判断しました。ただ、相性の悪そうなものは、ハッセルブラッドジャパンで調整の受付があるようなので依頼してみるのも方法のひとつでしょう。
相性以外にこちらの肉眼の性能の問題ということもあります。
1億画素のセンサーはフォーカス面が完全平坦でシビアなので、いいかげんにフォーカシングするとピンボケ写真を量産してしまう可能性もあります。超高画素のため、使用レンズの合焦点のピーク位置がより狭く感じるためか、フィルム時代よりも見かけの被写界深度が浅くなる感覚があります。被写界深度は単なる「ピントが合っているようにみえる」という基本的な光学理論を、写真によって証明したことになります。
ハッセルブラッド553ELX+CFV100C・ディスタゴンT*CF60mm F3.5・絞りF8・1/125秒・ISO100 モデル:佐藤 雨
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ハッセルはウエストレベルでの撮影が好きなので、ローアングルで撮りたくなります。フォーマットはデフォルト。スクリーンのフレームに合わせて撮影しています。
CFV100Cのもつ本来の性能を本気で引き出そうと考えるならば、かなり慎重にフォーカシングする必要がありますが、中判用の焦点距離は35mmフルサイズの標準レンズでも焦点距離が長いから被写界深度は浅いことになります。
もともとブローニーのフィルムは平坦性がよろしくないことが知られていて、絞りを開いて撮影するのは原理的にはリスキーだったのですが、なんとなくフィルム再現性のユルさによって許容できてしまうようなアバウトなところもありました。つまり若干のフォーカシングのエラーや、使用レンズの画像の平坦性が悪くても、気にならないこともあったわけです。
ところがCFV100Cをフィルムの代わりに使用すると、レンズの残存収差がそのまま思い切り露呈されてしまうことがあります。
ハッセルブラッド553ELX+CFV100C・プラナーT*CF80mm F2.8・絞りF8・1/125秒・ISO100 モデル:佐藤 雨
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かつてのハッセル正統派のツァイス・プラナーCF80mm F2.8にて撮影。ピント合わせがリスキーなので、少し絞り込んで撮影。旧Vシステムに敬意を表して、正方形にトリミングしてみましたが、実用上は問題ありません。
先に述べたように、旧来のハッセルC、CFレンズの多くはCFV100Cの1億画素の鮮鋭性を引き出すには全幅の信頼を寄せることできず、物足りない結果になることも事実です。とくに高鮮鋭、高解像力が必要とされる風景撮影では、遠景にある木々の葉っぱなどの細かい部分をみてゆくと解像力が足りていないのではと思うときもあります。
フィルム時代には一般に中判レンズは35mm判のそれと比較すると、解像力など数値上の性能は劣るとされました。これはネガからの拡大率が大きくないので、高性能にする必要はないという意味もあったのでしょう。でも現在のデジタルの中判カメラ用のレンズは、フォーマットの小さいカメラ用レンズと同等に高性能です。
逆に悪とされる結像のユルさ、残存収差を利用することで、ポートレートに適する軟らかいスキントーンを表現として結びつけることができるのではないかという前向きな考え方をしてみるのも筆者はアリと判断しました。
とくに女性のポートレートでは肌再現を美しくみせるレタッチを施すのが当然のことになります。最新のレンズだと毛穴までバリバリに写ってしまい、モデルさんに嫌われてしまうからでしょう。
筆者の所有するCFレンズだけかもしれませんが、これらはややユルい描写をしますので、さほど大仰なレタッチを施すことなくポートレート向きとして活用することができそうです。したがってCFレンズがまったく使いものにならないとされるのは、ことポートレート撮影に限っては、さほど心配する必要はないのでは、というのが筆者の結論となります。
ハッセルブラッド553ELX+CFV100C・マクロプラナーT*CF120mm F4・絞りF11・1/125秒・ ISO100 モデル:佐藤 雨
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これも名玉とされるマクロプラナー120mmで撮影。性能面では全幅の信頼をおくことのできるレンズですが、フィルムの再現よりも少し軟らかい調子に感じます。これも1:1正方形トリミングを行い旧来のハッセルの雰囲気を出してみました。
1億画素が有用なのかそうではないかは、個々のユーザーの判断にもなるかと思いますが、撮影時のアプローチなどは前機種の907X+CFVII 50Cと大きく変わることなく扱うことができます。筆者は1億の画素数よりも像面位相差AFを魅力的に感じました。旧Vシステムを今後も生かし続けたいという人にもCFV 100Cもおすすめすることができます。
オールドレンズとの戯れ、それらを使用しての写真制作は筆者も決して嫌いな創作活動ではないのですが、ハッセルはずっとアサインメント用として使用してきた経緯がありますので、デジタルでも高精度の仕上がりになるように結像に注意し、使用レンズの再現性を徹底して追い込みたくもなります。
新しく登場したフィルムの検証や、CFVII 50Cを導入したことで、プライベート時に再びハッセルを積極使用しはじめたのはここ数年です。今回の試用で、筆者自身もCFVII 50CからCFV 100Cに乗り換えたくなりました。
ただ、加えてXCDレンズまで用意することを考えますと、相応の対価を支払う必要があります。
すぐに実現は難しく、長い道のりとなりそうですが、それでもハッセル907XとCFV 100Cの組み合わせは、人生の目標として揃えたい中判カメラシステムと考えても大げさではないように思えてきました。
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Photo & Text by 赤城 耕一 (あかぎ・こういち)