はじめに
1億画素の中判 裏面照射型 (BSI) CMOSセンサーを搭載
907XとCFV 100Cを組み合わせて、はじめて撮影可能なカメラとなる
旧来のVシステムもデジタルバックCFV 100Cでデジタル化することができる
CFV 100C内蔵のSSDで、4000ショット以上の撮影が可能
1億画素センサーで「ハッセル気分」を味わう
作例に使用したカメラ
Hasselblad 907X & CFV 100C JP
作例に使用したレンズ
Hasselblad XCD 2.8/65mm
まとめ
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)、最新刊は『アカギカメラ 偏愛だっていいじゃない』(インプレス)。
ハッセルブラッドVシステムと筆者は40年以上の長いつきあいになります。
すでに40年前の時点で、真面目なプロフェッショナルフォトグラファーの選択する中判カメラは、マミヤRZとかRBあるいは、ペンタックス67あたりが定番でした。
アサインメントでは6×6の正方形フォーマットを生かしたレイアウトが行われることはそう多くはありません。したがって、カメラマンは最初から長方形フォーマットの6×7判あたりのカメラを使用したほうが都合がいいと考えられていたからかもしれません。
筆者はそれでも正方形のフォーマットの写真に固執、いや、ハッセルにこだわっていたのです。
ハッセルブラッドのステータスは写真少年時代から強く脳裏に刷り込まれ、著名な写真家が愛用していたのをカメラ雑誌で見ていたこともあり、ハッセルを持ちさえすれば先達と同じ写真が撮れるとばかり入手を目標としました。ハッセルはそれだけ自分の中では絶対的な位置に君臨し、入手することが人生の目標のようになっていたわけであります。
でも、実践ではどうだったでしょうか。スタジオで、あらかじめテスト撮影したインスタントフィルムをデザイナーさんに切り刻まれるように線を引かれたり、ぐちゃぐちゃに折りまげられて、フレーミングのアタリを指示されながらも、可能なかぎりハッセルで頑張っていました。実用という意味では正方形画面ならば縦でも横でも使えるという消極的な実用アイテムとなっていたわけです。
つまりハッセルでアサインメントの撮影する時はほとんどがトリミングすることが前提となりますので、当然のように周りを広く取り込み、主要被写体までの距離も必要に応じて遠くります。このため、デフォルトの撮影画像は、なんだか腰が引けたような見た目の“弱い” 写真になったことをよく覚えています。
なぜ最初にこんな余計な話をしたかといえば、筆者はハッセルブラッド907X+CFV II 50Cのユーザーだからであります。
センサーは33×44mmですから、多くのデジタル中判センサーおなじみのサイズであり、ハッセルと名ばかりの長方形のフォーマットです。
ハッセルなのになぜ長方形フォーマットなのだ、というのは年寄りのクレーマーみたいなものかもしれません。昨今は、このこともあまり気にならなくなりました。この理由は後述することにいたします。
さて、今回は2回にわたり907Xと新登場のCFV 100Cを取り上げます。
カメラ部の907Xは従来と変わることがありませんが、CFV 100Cのキーデバイスは1億画素の裏面照射型 (BSI) CMOSセンサーに変わりました。画素数だけをみればCFV II 50Cの倍ということになります。
さらなる高鮮鋭性画像が期待できるのですが、筆者のアサインメントでは5000万画素でもオーバースペックであったのに、いきなり画素数が倍であります。さて、これはいかなることになるのでしょうか。
907X+CFV100Cに、XCD 2,8/65を装着。感覚的には “標準レンズ” となるもので、とても使いやすい画角です。ただし、フィルムのハッセルVだと80-100mmが標準レンズ、しかもフォーマットは1:1ですから、でき上がった写真のニュアンスがだいぶ異なり、個人的には35mmフルサイズの標準レンズで撮影した印象に近いものだと考えています。
907X+CFV100Cに、XCD 4/45Pを装着。重量320gで中判用オートフォーカスレンズとしては最軽量。35mm判換算で36mm相当。 スナップ撮影に使いやすい広角レンズになっています。
あらためて907X+CFV 100Cのことを説明すると、まず「カメラ部」は907Xがその役を担うことになります。
907X本体です。これが基本的に「カメラ」本体ということになります。シャッターボタンや、レンズ着脱ボタンを搭載しています。
この1センチくらいのマウントのある薄い板が、カメラの機能を有しているのですから、とても不思議なことですが、ここにレンズは装着することができても907X単体ではデジタルカメラとして機能させることはできません。
907Xは単体では使用できず、既発売のCFVII 50Cや今回のCFV 100Cと組み合わせてはじめて撮影が可能になります。CFV 100Cはいわばデジタルバックの役ですね
CFV 100Cの33×44mm 1億画素のCMOSセンサー部分。はらわたを直接見たような感覚です。ゴミや埃がつきやすいので撮影前によく確認する必要があります。
907X+CFV100 Cをドッキングさせた状態です。これが本体となり、レンズを装着すればカメラになるわけです。旧来のVシステムの中ではSWCにもっとも近いですね。シャッターはレンズ側だから、センサーはそのまま見える。取扱注意です。
CFV100Cの3.2インチのタッチスクリーンは最大40°および90°まで傾けることができ、ウエストレベルでの撮影が可能。
ボディ脇には907XもCFV 100Cにもエンブレムがあり、並ぶようになっています。1億画素のポテンシャルを活かすにはこの組み合わせにXCDレンズを使用します。
907Xと組み合わせて、はじめて撮影可能なカメラとなる一方で、CFV 100Cは単体で旧来のVシステムの6×6判一眼レフ、ハッセルブラッド500CMやSWCにフィルムマガジンの代わりに装着すれば、旧来のハッセルVシステムのユーザーインターフェースはほぼそのままにデジタル化を可能にします。つまり、旧来のハッセルを中判デジタルカメラ化することができるわけです。フィルムマガジン交換可能なカメラだからできる技でありますね。
ハッセルブラッドSWC/MにCFV 100Cを装着しました。デザインの違和感はないですね。ただ、この場合は外づけのファインダーには33×44センサーの指標はありませんから、フレーミングは正確に行えませんし、フォーカシングも目測になります。今回は何度かフレーミングを勘で撮影して撮影画像をみながらフレーミングとフォーカスを追い込みました。ライブビューを利用して、正確なフレーミングをすることもできます。
ハッセルブラッド553 ELXにCFV 100Cを装着。レンズはディスタゴンT* CF50mm F4 FLE。
CFV 100Cの姿とカタチはハッセルのフィルムマガジンにとてもよく似ています。旧来のハッセルに装着しても、デザイン的な違和感がほとんどありません。このこだわりもすごいですね。貼り革までカメラボディと似たものが採用されています。
ハッセルのフィルムマガジンA12とCFV 100C(左)を並べてみます。よく似ていますね。旧来のハッセルVシステムに装着しても違和感はありません。
907X+CFV 100Cでは、X2Dと共通のレンズシャッター搭載のXCDレンズを使うのが基本です。他にも純正でマウントアダプターが用意されており、HC/HCD、V、XPANシリーズレンズを取り付けることも可能になっていますが、この場合は電子シャッターでの使用になりますので、大きなローリングシャッター歪みには十分に気をつけねばなりません。
907XにCFV 100Cとの組み合わせたときの重量は620gで907X+CFVII 50Cの組み合わせよりも120 g軽くなっています。
ファインダーは907Xのエムブレムプレートを外して装着するのですが、HASSELBLAD名がなくなるのが辛いですかねえ。
907X+コントロールグリップ+外づけのファインダーを装着した姿です。カメラらしくなってきました。やはりグリップをつけるとホールディングが安定します。
コントロールグリップに、オプティカルビューファインダーを装着したフル装備状態。このファイダーではAFエリアの位置や合焦の可否がわからないので、LCDの確認なしで撮影するのはギャンブルですが、デジタルだから即時結果確認もできるので、もっと自由に考えていいかもしれませんね。
CFV 100Cは、1TB内蔵SSD(書き込み速度は最大2370MB/s、読み込み速度は最大2850MB/s)を搭載しています。CFexpress Type Bカードを使用できるスロットも搭載していますが、内蔵のSSDだけでも4000ショット以上の撮影が可能ですので、今回はCFexpress カードは使用せず、内蔵のSSDのみに記録しました。
試用は屋外での撮影も多かったので、テザー撮影は行わず、撮影後のPCへの画像取り込みはタイプCのUSBケーブルを接続し転送しました。
CFV100Cをデジタルバックとして使用する場合は使用するカメラを選択して登録する必要がありますが、LCDにタッチしながら直感的に設定できます。
もちろんカードを併用すれば、撮影枚数を増やすこともできますし、撮影データのバックアップの目的として、SSDかCFexpress カードを選択することができますから安心です。
907Xと CFV 100Cの組み合わせでは像面位相差AFが機能します。
コントロールグリップの上面です。フォーカスエリアの変更、画像再生、AF/MFの切り替えを素早く行うことができます。一度使うと手放せないアクセサリーです。
カバーを開くとCFexpress カードスロットが見えます。今回は内蔵のSSDを使用したのでカードは使いませんでした。画像の取り込みはUSB-C経由で行いました。
1億画素センサー面にフォーカスゾーンが294点配置され、前モデルと比較して、フォーカス速度が約300%速くなったとアナウンスされていますが、実際に使用した印象では、状況によってはコントラストAFと同様に、フォーカスをサーチするような動きをすることがたびたびあり、通常の中判ミラーレス機と比較しても、爆速のAFというわけではありません。
もっとも、このカメラで、スポーツを本気で撮影するという人は稀でしょうから、AFの速度が極端に速くなくても、実用上の問題はほとんどないと考えていいと思います。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 4/45P
絞りF11・1/6400秒・ISO200
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XCD 4/45P で撮影。XCD45mmレンズは、このシリーズの中では廉価設定ですが、とてもシャープで高性能ですね。パンケーキとアナウンスされていますがそれは大げさでしょう(笑)。
また、顔認識機能AFはとても便利で、精度的にも有用でした。絞りを開いて撮影するような場合や人物スナップなどでは顔認識があるかどうかで撮影のアプローチの仕方が変わるくらいなのです。
1億画素の画像は、被写界深度が浅くみえるようです。A3程度のプリントではわからないかもしれませんが、PCで拡大してみるとレンズの合焦点は理論的に1点にしかないことを思い知らされることになります。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 2,8/65
F4・1/2000秒・ISO100
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XCD 2,8/65は、いわゆる「標準レンズ」的な存在になります。33×44mmセンサーの対角線距離に近い焦点距離というところからきているんでしょうか。絞りを開くとかなり被写界深度は浅く感じます。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 2,8/65
絞りF11・1/640秒・ISO200
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XCD 2,8/65で撮影。光の捉え方が独自の印象です。シャープネスの追求というよりも、個人的には階調のつながりの自然さということに注目しています。
だから、被写界深度は「フォーカスが合ったようにみえる」だけということがよくわかります。仮に1億画素センサーのポテンシャルをすべて引き出そうと考えるならば、フォーカスの位置決めや手ブレに対する対策などを慎重に行う必要もあるかもしれません。ただ、あまりに硬直した考え方は機動性を損ないます。
冒頭に述べたように、もともとはデフォルトでは長方形のフォーマットですが、本機くらいの高画素機になると、トリミングは自在に考えていいと思います。デフォルトではたしかに長方形だけど、1:1の正方形画面にトリミングすることを前提としても、その画質低下を認識することはできないと思います。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 2,8/65
絞りF11・1/400秒・ISO200
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建物のディテール描写にも余裕を感じます、光の捉え方に余裕を感じさせますね。65mmはX2Dや907Xは間違いなく必要なレンズでしょう。
907X+CFV 100Cの組み合わせでも、旧ハッセルとCFV 100Cとの組み合わせでも正方形にトリミングしたくなります。
後者には専用の33×44枠と33×33枠、すなわち1:1フォーマットのアタリのついた専用スクリーンに交換すれば、撮影時からいわゆる「ハッセル気分」を味わうことができます。画素数1億の高画素になると多少のトリミングなどビクともしないわけですが、あとは撮影者がトリミングをすることに抵抗感を感じるかどうかでしょう。
CFV 100C用をデジタルバックとして使用する時のための33×44センサー用のフレームを入れたフォーカシングスクリーン。正確なフレーミングを行うには使用はマストです。1:1正方形時には破線を使います。
ハッセルブラッド553ELX・ディスタゴンT* CF50mm F4 FLE
絞りF11・1/500秒・ISO200
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鉄塔をセンターにおいて撮影しました。正方形画面によく合うのではないかと1:1にしてみましたが決まりすぎたようです。フローティングを内蔵したレンズです。後処理で少しシャープネスをかければ十分に現代レンズと勝負できそうです。
面白いのは、フィルム時代はデフォルトの正方形フォーマットを長方形フォーマットにすることに腐心したというのに、デジタルになったら、デフォルトの画像は長方形になり、それを正方形にトリミングしようと考えてしまうのです。フィルム時代とは逆方向の行為になるわけですが、これが現代のデジタル写真術であると考えてもよいのではないでしょうか。ここでは、一部の作例のためにVシステムのハッセルブラッドSWC/Mと553ELXにディスタゴンT*CF50mm F4 FLEを使用しています。
ハッセルブラッドSWC/M ビオゴン T* 38mm F4.5
絞りF11・1/1000秒・ISO200
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ハッセルブラッドSWC/Mのビオゴン T* 38mm F4.5は撮影条件によっては見事な描写をしますが時としてハイライト部分がわずかに滲むなどの描写になることがあります。トリミングせずそのまま使いました。フォーカスは目測で試し撮影しながら追い込みました。
ハッセルブラッドSWC/M ビオゴン T* 38mm F4.5
絞りF8・1/1000秒・ISO400
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33×44センサーですから周辺光量の低下はそんなに目立たないのかと思いましたが、条件によってはめだちますね。少し露出をアンダーめに設定していますが、ものすごく深みのある描写というか個性的な再現です。
ハッセルブラッド553ELX・ディスタゴンT* CF60mm F3.5
絞りF11・1/500秒・ISO200
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古いレンズですが、撮影距離によっては満足できる性能です。画像はデフォルトですが、追い込めば、さらにシャープにみせることができます。高周波成分が入りづらい至近距離のほうが安心してみることができますね。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 2,8/65
絞りF4・1//500秒・ISO200
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至近距離で絞り開放ですが、合焦点のシャープネスは見事です。手ブレを起こさないように慎重にカメラを構えました。
ハッセルブラッドCFV 100C/907X・XCD 2,8/65
絞りF11・1/1000秒・ISO200
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晴れて乾燥した晴天なのですが、ハイライトの再現をみるとウェットな感じすらします。これも階調の再現の幅の広さに魅力を感じます。
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Photo & Text by 赤城耕一