Nikon NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRは、一般的な望遠域(200mm〜300mm)から超望遠(300mm以上)までを1本でカバーする、望遠レンズユーザーにとっては撮影の幅がぐんと広がる、機動性・操作性に優れた超望遠ズームレンズ。今回フォトグラファーのクキモトノリコさんが、2023年5月に発売されたNikon Z 8とともにその使用感を検証、作例とともにレビューした。
はじめに
今回の撮影機材
180mmと600mmの差
600mmで撮れる世界とその特徴
最短撮影距離での撮影
そこそこ近くからうんと遠くまで、これ1本でO K!という焦点距離域
まとめ
作例に使用したカメラ
Nikon Z 8
作例に使用したレンズ
Nikon NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR
学生時代の海外ひとり旅をきっかけに一眼カメラを手に入れ、写真をはじめる。いくつかの職業を経て写真家へ転身、2010年よりカメラメーカーの講師に。現在は『たのしく、わかりやすい』をモットーにニコンカレッジの他、自治体主催を含めて様々な写真セミナーで講師を務めている。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。神戸出身・在住。晴れ女。
今回は三脚を使用せずすべて手持ちで撮影しました。
レンズ本体が約2,140g(三脚座リングを外すと約1,955g)、Z8が 約910gで合計約3kg。日頃、ここまで大きなレンズを持つことがほとんどない私にとっては決して軽いわけではなかったものの、できる限りの軽装備で撮影に出かけたこともあり、わずか3日ほどで腕の筋力UPを実感した話はさておき、レンズに搭載された5.5段という強力な手ブレ補正の効果もあって十分に手持ちでの撮影を楽しめました。
一眼レフ用で似た焦点距離域を持つ、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR が約2,300g、AF-S NIKKOR 180-400mm f/4E TC1.4 FL ED に至っては約3,500g であることを考えると、この600mmが使えるレンズはテレ端の開放F値が1段ほど暗くなるとはいえミラーレスになってかなり軽量化されていることがわかります。
そもそも、このレンズのズーム域である180mmと600mmとはそれぞれどのくらい望遠なのでしょうか。まずはシンプルにそれぞれワイド端(といっても180mmの望遠なわけですが......)と、テレ端とで撮り比べてみました。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・180mmで撮影
絞りF8・1/1000秒・ISO200・WB自然光オート
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ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF8・1/800秒・ISO200・WB自然光オート
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淡路島北部にある淡路ハイウェイオアシスより、明石海峡大橋と対岸を望んで撮影。180mmではいわゆる通常の望遠、といった感じですが、600mmとなると、橋の上を通行するトラックや、道路標識が確認できるほどとなりました。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・180mmで撮影
絞りF6.3・1/500秒・ISO400・+0.3EV 補正・WB自然光オート
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ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF6.3・1/800秒・ISO400・+0.3EV 補正・WB自然光オート
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この動物園は、サファリを模した展示形態が特徴のひとつですが、それゆえに一般的な望遠レンズで動物のクローズアップ撮影には焦点距離が足りない......と思うことがしばしばありました。今回、600mmで撮影したことでその点がしっかり解消できました。
ニコンZ 8・Z 24-200mm f/4-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF6.3・1/500秒・ISO640・WB自然光オート
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600mmという超望遠レンズを手にしたからには鳥を撮影したくはなったものの、日頃、鳥を撮ることがほとんどない筆者が急に野鳥の撮影というのはなかなかハードルが高く… まずは動物園へ出かけました。あいにくと小鳥がいなかったのですが、アオサギを約15m手前から撮影。頭の後ろにちょこんと乗った羽根までしっかり解像してくれています。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF6.3・1/500秒・ISO640・−0.3EV 補正・WB自然光オート
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Nikon Z6Ⅱ・NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR・200mmで撮影
絞りF6.3・1/640秒・ISO125・−1.7EV 補正・WB自然光オート
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おとなのフラミンゴの隙間に赤ちゃんがいました。やはり10数メートルは離れていたのですが、小さな身体を大きく捉えることができました。別の機会に撮影したものにはなりますが、同じ場所でほぼ同じ位置にいたフラミンゴを、その時の一番望遠であった200mmで撮影した写真と比較してみましょう。小さな被写体を大きく撮影できているとともに、撮影場所から1mほどのところにあるフェンスの存在感の有無にも大きな違いが出ていることが見て取れます。尚、望遠になればなるほど被写界深度が浅くなり、前ボケも大きくなることからカメラに近いフェンスが目立たなくなります。
Nikon Z 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF6.3・1/160秒・ISO640・+2.3EV 補正・WB自然光オート
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ところで、やはり野鳥撮影はにわかには難しく(そもそも見つけることが困難という……涙)、かろうじて撮れたのがこの一枚。10mほどの高さでしょうか。なんとかヒヨドリの姿を見つけてシャッターを切ったものの、顔の前にうっすらと被る枝があったり、背景が大きく白飛びしていたり、ツッコミどころ満載ではありますが、600mmで捉えた被写体の大きさ、という観点から載せさせていただきます。尚、思い切って露出を上げた結果、シャッター速度が1/160秒となりましたが、強力な手ブレ補正のおかげでブレなく撮影することができています。
Nikon Z 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF6.3・1/640秒・ISO100・−1.3EV 補正・WB自然光オート
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600mmのときの開放F値はF6.3。F値だけを見るとそこまで絞りを大きく開いているように思えないかもしれませんが、望遠レンズの特徴である被写界深度の浅さと相まって、ピントの前後に大きなボケを作ることができています。撮影地の写真をご覧いただくとわかるように、実はまばらにしか咲いていなかった曼珠沙華(彼岸花)ですが、画面中央奥のお花にピントを合わせることで、手前のお花を大きくボカし、後ろの茂みのオレンジ色のお花もボケてまるでみかんのような印象になりました。
Nikon Z fc・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・27.5mmで撮影
絞りF6.3・1/500秒・ISO3200・−0.7EV 補正・WB自然光オート
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日没直前に飛行機の離陸を撮影しました。さほど大きくはない飛行機ですが、600mmであれば機体が豆粒のようになることもなく、またエンジンから出た熱風による空気のモヤモヤもしっかり確認できます。
Nikon Z fc・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF8・1/1250秒・ISO1250・−0.7EV 補正・WB自然光オート
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これから離陸しようとする飛行機と、その前に先ほど着陸して滑走路から出ていった飛行機を同じ画角内に収めました。写真では2機の間隔がかなり近く感じられますが、もちろんこれは望遠レンズの圧縮効果によるもので、実際にはかなり離れています。
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前述の淡路ハイウェイオアシスより、明石海峡越しに神戸側を望んで撮影しました。手前の海(明石海峡)から画面右端近くに聳え立つ白い煙突(クリーンセンター)までは、地図上の直線距離で約13km。そこから画面左端の茶色い高層集合住宅までは約730m。さらに、クリーンセンターから背後の山の上の住宅街までの距離は約4.8km。色々とスケールがかなりおかしくなっていることがわかります。これは前後の距離がグッと縮まるという望遠レンズの圧縮効果によるもので、望遠になればなるほどその効果が大きくなるレンズマジック。ここまでの圧縮効果を実感できたのは600mmならではです。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・180mmで撮影
絞りF5.6・1/500秒・ISO200・WB自然光オート
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本レンズの最短撮影距離は広角側で1.3m、望遠側では2.4mであり、最大撮影倍率は0.25倍となっています。最短撮影距離とはカメラ本体にある距離指標マークから被写体までの距離のことで、最大撮影倍率は最短撮影距離で被写体が一番大きく写る時の大きさですが、0.25倍とはセンサー上に実物の1/4の大きさで写るということです。では実際どのくらいの大きさで写るのかを確かめてみました。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF6.3・1/500秒・ISO200・WB自然光オート
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咲き始めのコスモス畑で、180mmと600mmでそれぞれピントが合うギリギリまで寄って撮り比べてみました。もちろん、600mmの方が画角が狭くなり被写体を大きく捉えているとともに、背景のボケも大きくなっていることがわかります。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF8・1/640秒・ISO500・−0.7EV補正・WB自然光オート
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コノシメトンボでしょうか。元々昆虫はビジュアル的に得意ではないものが多いため(足/脚は4本まででいいんです。笑)あまり撮影することがない被写体なのですが、トンボは飛び立ってもしばらくするとまた同じ場所に戻ってくる習性がある、と聞いていたため600mmで最短撮影距離まで寄ってシャッターチャンスを待ち、何度かチャレンジすることができました。超望遠ならではの大きな背景ボケに浮かびあがる姿は純粋に綺麗であり、がんばって木にしがみつく様子はなんとも可愛らしく大きな発見となりました。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF6.3・1/800秒・ISO500・−0.7EV補正・WB自然光オート
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曼珠沙華(彼岸花)の蜜を吸いにきたモンキアゲハ(ですよね?)も赤い花の絨毯に黒い蝶、というコントラストが綺麗なことと、絵に描いたような蝶の姿に夢中でシャッターを切りました。とはいえ、昆虫が得意ではない身としてはマイクロレンズによる昆虫の目のクローズアップといったマクロ撮影がしたいわけではなく、2メートルほど離れた場所からその美しい姿をしっかり大きく捉えることができて大きな満足とともに撮影を楽しむことができました。
一般的な望遠域から超望遠域を1本で賄える本レンズは、「今日は望遠が必要!」というロケーションにおいてこれ一本でOK!となる方が多くなるのではないかと思います。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・370mmで撮影
絞りF6.3・1/3200秒・ISO640・+0.3段EV補正・WB自然光オート
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ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mmで撮影
絞りF6.3・1/1000秒・ISO640・+0.3段EV補正・WB自然光オート
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飛行機の離着陸撮影において望遠レンズは必須アイテム。離着陸を間近に楽しむことができる有名なスポットで、欲張りな私は下降してきた飛行機の正面を370mmで撮影したのち、機体が頭上を越えたらすぐに反対側に向きを変えて600mmで着陸を撮影。ズームリングの回転角が70°と、レンズを持ち直すことなく広角と望遠を行き来できるように設計されており、またズームリングの動きも程よい軽さで非常に滑らかなので素早く焦点距離を変えることができました。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・180mmで撮影
絞りF5.6・1/800秒・ISO200・−0.3段EV補正・WB自然光オート
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ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・300mmで撮影
絞りF6.3・1/600秒・ISO640・−1.0段EV補正・WB自然光オート
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動物園で気持ちよさそうにスヤスヤお昼寝中のイヌ......ではなく、オオカミ。特徴的な冠と羽根、そして長い首が作り出す姿がフォトジェニックなホオジロカンムリヅル。観覧場所からの距離が近い生き物たちに600mmもの超望遠は不要ですが、一般的な望遠レンズの焦点距離をカバーしているため、このレンズ1本で動物園撮影を楽しむことができました。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・280mmで撮影
絞りF5.6・1/1600秒・ISO1000・WB自然光オート
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ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・250mmで撮影
絞りF5.6・1/1600秒・ISO1000・WB自然光オート
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公園の池にいたアオサギが飛び立つ姿とバトル(?)を捉えました。大きめの鳥であることと、鳥との距離が比較的近く、200〜300mmの焦点距離をカバーしているレンズであることが役に立ちました。
ニコンZ 8・NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR・600mm(35mm判換算1200mm)で撮影
絞りF6.3・1/500秒・ISO500・WB自然光オート
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岩の上で休憩していたハクセキレイ。撮像範囲をFX(フルサイズ)からD X(1.5倍のAPS-C相当)に切り替えて撮影しました。Zシリーズの機種によって多少異なりますが、カスタムボタン機能の割当てやiメニューのカスタマイズで「FX/DX切り換え」を割り当てておくことでスムーズな切り替えが可能となり撮影がしやすくなるのでおすすめです。
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Photo & Text by クキモトノリコ