80年代にブレードランナーという映画が公開された。
それまでの折り目正しいSFや、種々雑多なお巫山戯SFとも違う不思議な映画だった。
あれから数十年。
今やブレードランナーはSF映画の古典にまで昇華している。
まあ、それは兎も角。
この映画で表現された「街」というものは、それまでの表現とは一線を画したものだった。
酸性雨が降る、ごった煮状態の街。
路地には怪しげな店舗と主人が鎮座して街の淀みに巣食っている。
そんな淀んだ空気に主人公たるデッカードは身を沈め、最後には自我を問い続けるレプリカントと対峙する。
そんな近未来ハードボイルドな世界と、今の新宿がシンクロするわけでは無いのだけれど、今日みたいな曇天の寒い日に新宿をぷらりぷらりと歩きながらファインダーを覗いてみれば、この猥雑な街並みのなんと退廃的で魅力的なこと。
夜の帳を待つまでもなく、どこか非日常なこの新宿界隈の風景を記録してみようと思いたつ。
それこそレプリカントではないけれど自らの記憶として写真という手段で記憶を補完してみるのも悪くない。
なんて阿呆なことを考えながらスナップ開始。
OM-D E-M5 Mark IIのボディに、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3のズームレンズの組み合わせ。
性能や描写については後の評価に任せるとして、今回は使い勝手について書いてみたい。
言うまでもなくマイクロフォーサーズは軽くて小さい。
今回の機材はレンズとボディで約1kg。
この重さで広角24mmと400mmの超望遠、その両極端の表現が負担にならないまま記録できる。
この負担のない軽さあればこそ、こんな寒空でも非日常を妄想しながら撮影できる余裕があったのかもしれない。
しかし、いかに寒いとはいえ新宿界隈。
行き交う人の多さだけは毎度のこと。
この人混みの中にあって、極力人物を排除してスナップ写真を撮るというのは、ちょっとした苦労だった。
広角スナップはカメラの軽さもありサクサクと撮影が進む。
問題は望遠だ。望遠400mmレンズを街中でどこに向ければいいのか。正直なところ途方にくれた。
やはり圧縮効果を狙うのがセオリーなのだろうと考え、ともかくシャッターを切った。
繰り返しになるが重量1kgで広角24mmから400mmの超望遠が手に入ると考えれば、十分満足できるシステム。
さらに、広角でも望遠側でも、かなりの近接撮影が可能で驚いた。
テーブルフォトは当たり前。ちょっとした接写もこなしてくれる。
本来は旅のお供に持ち出すのが正解なのだろう。あえて今回は街撮りをやってみたわけだが、面白かった。
最後になるが、外気温4度という寒さでは、さすがにバッテリーの稼働時間が短くなったが、一定以上の温度になると復活した。
あまり寒い日の撮影には出向かないのだが、やはり予備のバッテリーは必要と実感した。
ブレードランナーに話を戻そう。
レプリカントは、自らの記憶を補助するために写真を手元に置く。
写真は動画と違い、動かず、そして語らない。
けれど、動かないし、語らないからこそ呼び起こされる記憶や匂いがある。
個人的に、ブレードランナーが未だに「ひっかかる」映画なのは、物語の中盤に写真の件があればこそだと考える。
これから写真表現の手段も変わるだろう。
記録形態も変わるだろう。
けど。
今日、こうやって新宿を記録したことだけは確かな記憶。
さて、今宵は映画でなく原作小説をまた読み解いてみようか。
尤も、電気羊が酒の酔いに負けなければの話だけれどね。