Carl Zeiss (カールツァイス) の高性能レンズ Otus 1.4/100 のレビューです。
今回 Carl Zeiss (カールツァイス) Otus 1.4/100 のテストにあたり、相応の覚悟を持って挑みました。なぜなら、
1.全メーカーを通しても最高性能が予想される「Otus」であるという事
2.100mm f1.4という、極端に被写界深度の薄いレンズだという事
3.マニュアルフォーカスだという事
4.上記3点を理由に、ピント合わせが非常~~~~~~~~~~~~に難しくなるからです。
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経験的に、Otus のような超高性能なレンズを、光学ファインダーで完璧にピント合わせする事は、至難の業である事はわかっていました。しかも、今回は100mm f1.4 と、望遠の大口径レンズです。
よって、撮影のプロセスは「ライブビューで簡単にフレーミングする→ピント合わせをしたい場所にフォーカスポイントを移動(コサイン誤差を最小にする為)→そのまま拡大→ピント合わせ→再度フレーミングを微調整→シャッターを押す」と5段階で行いました。
テストボディはD850(約1005g)、Otus 1.4/100(約1336g)を装着すると、合計2,341gと、2.5kg近い重量となります。
手持ちでこのプロセスを実行するのはかなり大変なので、このレンズのポテンシャルを活かすには、やはり三脚や一脚は必須と言えるかもしれません。
商業ビルの雑多で汚れた後ろ姿が、何だか人間の縮図を見ているようで、シャッターを切りました。
正直言って、最初は100mmのマニュアルフォーカスレンズを少し使いあぐねましたが、あまり肩ひじ張らずに、思ったままに撮るようにしました。
が、先に書いたプロセスでピント合わせを行い、シャッターを切ると、1カット撮るだけでかなりの疲労です。夏の暑さが老体に応えます。
ビルの壁面の、オブジェに魅力を感じてレンズを向けました。子供が油粘土で作ったような造形と、まるで古代人が刻んだようなパターンに、不思議な懐かしさを感じます。
背面液晶の拡大表示で、モニターでジワリとピントが合って行く様を見ているだけで、レンズの凄さが伝わって来ます。
カラーでありながらモノクロを見ているような、重厚な陰影の付き方にドイツのレンズらしさを感じます。
今回の撮影で、数少ない光学ファインダーを使ってピントを合わせたカットです。
さすがに、発車直前の列車に向かってライブビューの拡大でのピント合わせは無理なので、ファインダーを覗いて手早くフォーカスしました。
狙った車掌さんにかなり上手くピントが合いましたが、残念ながら、ほぼ偶然と言っていいと思います。
個人的に、前ボケの非常に綺麗なレンズだと感じました。
後ろボケは、Zeissらしい背後に何があるかわかる、条件によってはややごちゃごちゃとしたボケ感ですが、逆に前ボケにはトロけるような柔らかさがあります。
積極的に前ボケを活かしたくなりました。
人通りもまばらな通りに、うつむき加減な少女のブロンズ像が佇んでいました。
人通りのない空虚な背景、磨かれて光沢を放つ銅の質感、滑らかな曲線のディテールを、さすがはZeissレンズ、見事に表現してくれました・・・と、思うのは、暑い中、重いレンズを苦労して扱って撮影した、撮影者のひいき目でしょうか?
私はそうではない、と信じます。根拠は下の写真です。
めしべの詳細なディテールまで解像する素晴らしいシャープネス、味わいのあるボケ味、花びらの細かい陰影まで再現する諧調など、Carl Zeiss (カールツァイス) Otus 1.4/100 が如何にハイレベルな理想の元に設計されたかがわかります。
しかも、実はこのカット、下の写真からの拡大画像なのです。
このカットの花一輪の拡大が、先の画像になります。驚くべき解像感、シャープネスです。
Otus は Zeissレンズの中でも最高峰に位置するシリーズですが、「高性能」だけでは割り切れない「何か」がある、と感じるのは、いつもZeissレンズをテストする際に感じる感覚と一緒です。
大げさに思えるかもしれませんが、写真が芸術である事を、強く意識させられるレンズなのです。
ちょっとした、野原の風景が、大きく味わい深いボケ味のおかげで、ドラマチックな情景になりました。
100mm f1.4 開放、近接での背景ボケの大きさはこのくらいで、ボケの大きさだけならもっと長い焦点距離のレンズで撮影したように見えます。
ポートレート撮影などでは、モデルさんとスムーズにコミニケーションを取れる距離感で、背景を大きくボカして整理したい時などに有効だと思います。
神社の狛犬を背後からパシャリ。
一眼レフ用の大口径レンズという事で、開放ではかなり大きく口径食が発生していますが、形はZeissらしく綺麗なレモン型で、大きく発生している割にはそれほど気になりません。
これも、今までテストしたZeissの特性と同様で、メーカーの考えが一貫している事にも好感が持てます。
本日のフジヤカメラのブログ史上、最も苦労した撮影の一つとなりました。
実写テストをしてみて、Carl Zeiss (カールツァイス) Otus 1.4/100 の究極と言えるような高性能に触れ、震えました。大きさ、重さ、価格、性能。ここまでやるか、という妥協の無さにドイツメーカーの空恐ろしいまでの執念を感じました。
反面、500馬力のスーパーカーで日本の一般公道を走るような違和感を、感じたのも事実で、果たしてここまで必要なのか?という疑問を、少なからず感じてしまいました。
レンズのポテンシャルを最大限生かすには、三脚の使用は必須だと感じましたし、偶然に頼らず、ピントを追い込みたいなら、ピントはライブビューの拡大を使用する必要があると思います。何よりその大きさ重さに耐えられる肉体と、技術に裏打ちされた心の余裕が必要です。
ある程度以上の性能のあるカメラをパートナーに選ぶのは必須と言えるでしょう。
レンズが持ち主や使い方を決める、まるで乗りこなすのが大変な「じゃじゃ馬」スポーツカーのようなレンズでした。