秋も深まり、今年の紅葉もそろそろピークを過ぎる頃ですね。皆さん、写真撮ってますか?今回のレンズ紀行は、「新品での販売期間が長いレンズ」というランキングを作ったら、まず間違いなく上位にランクインしてくるであろう、Nikon AI Nikkor 50mm f/1.4Sを取り上げます。このレンズの発売は1981年です。ニコンの新しいフラッグシップカメラ、F3が発売された直後というタイミングでした。当時のカタログには、F3に装着された50mmf1.4Sが誇らしげに掲載されています。それから長い年月が経過して、カメラはデジタルが主流になりました。でも、マニュアルフォーカスの50mmF1.4Sは、いまだに新品を購入することができます。フジヤ価格でも48,110円(2016.11.28現在)と決して安くはないのですが、れっきとした現行型のレンズです。それだけ支持があるということの裏返しともいえますね。そこで、「F」のコンセプトを受け継いでいるDfにこのレンズを装着し、前回に引き続き立川の国営昭和記念公園(東京都)で紅葉をたっぷり撮ってきました。
気に入ったので、確実に撮りたかったシーンです。画面の両端まで噴水の水がかかっている構図にしたかったので、まずは立ち位置を決定。シャッタースピードを早めにしたので、水が止まって背景の人工物を隠すことができました。ピントは中央後ろの像、顔に合わせています。50mmで撮影していますが、ローアングルから狙うことでワイド感を強調しています。背景には紅葉を。
カメラを首から提げて園内を歩きつつ、周囲の風景を眺めて被写体を探すのも楽しいです。そうすると、一度通り過ぎてからなんとなく気になって引き返すこともしばしばあります。この黄色い木もそのパターンでした。周囲から一際目立っているように感じたので、カメラを向けてみました。なぜか、今にも動き出しそうな気がします。黄色い木の左側、真ん中付近のところの枝が、どうしても「腕」に見えます。そうなると、この木のイメージがどんどん膨らんでくるのです。
池に浮かぶ大きな木。堂々としています。これだけの大きさですからとても目立ち、あちこちの場所からこの木を狙っているカメラマンの姿がありました。見ているだけでも素晴らしいので、ついつい撮らされてしまいます。どの場所にするかでちょっと迷いましたが、手前のススキを入れることにしました。晴れていたら、紅葉のコントラストがもっと高くなっていたでしょう。
どんよりとした曇り空のはずでしたが、昼頃から少しずつ明るくなってきました。これはひょっとしたら晴れるかも。と思っていたら、日差しが差し込んできたのです。日本庭園のところはちょうど紅葉に陽が当たり、人気スポットになっていました。到着して待つこと少し。陽が当たってきたのでこんなシーンが撮れました。このまま晴れるかと期待していましたが、さすがにそれは欲張りだったようで、しばらくするとまた厚い雲に覆われてしまいました。でも、ラッキー。色はしっかり出ます。ちょっとふんわりした暖かな雰囲気。とても心地よい描写だと感じます。
アジア圏からの団体ツアーが来ていたようで、日本語ではない言語が飛び交っていた日本庭園内での撮影。この紅葉の前には若いカップルが座っていて、自撮り棒を使って写真を撮ったり、風景を眺めて会話をしたり。楽しそうにしていました。しばらくして同じ場所に戻り、寄り添っている葉を開放で撮ってみました。色の出具合に派手さがなく、忠実に再現してくれますね。
茶室と庭園の風景です。紅葉はこのエリアが最も進んでいました。茶室と絡めて撮ろうとファインダーを覗いてみたら、映り込みがしっかりしていたので同時に狙うことにしました。PLフィルターを使ったわけではないですが、けっこうキレイに映っています。こういうタイミングですので来園者が多く、人がいなくなる瞬間を待っていましたが、チャンスがありませんでした。
誰かが葉を入れたのでしょうか。こんな場面を見つけたので撮ってみました。なかなか風情のあるシーンです。狙ったわけではないのですが、水が渦を巻いているような感じに撮れました。F2に絞っていますが、ピント合わせには気を使います。マニュアルフォーカスですし、しっかりとピントを合わせるためには、視度の調節をきちんと行っておくことも必要になります。ニコンDfはピントの山が掴みやすく、使いやすいカメラでした。マッチングも良さそうです。
茶室の裏の紅葉はこのような状況でした。この場所が最も人気が高かったです。手前の紅くなっている葉をアップで狙ったり、茶室と一緒に入れてみたり。それぞれのアングルで熱心に撮影していました。そんな皆さんとは全く違う位置で狙っています。画面下の両サイドにそれぞれ枝を配して、3色の紅葉を配置してみました。天気は曇っていましたが、逆光の場所からカメラを向けています。真ん中に配した紅葉のコントラストがくっきりして、鮮やかです。
予報では18時頃から雨ということでしたが、3時間ほど早い段階でポツポツ降ってきました。機材を濡らすわけにいかないので撮影を終えることにして、出口に向かう際に気になった木々です。ほとんど同じ場所ですが、色の変化には差があるようです。しばらくこれを見ていたら、昔のアーティストの髪型を連想し、そのイメージから離れられなくなってしまいました。
このレンズにはCPUがありません。従って、撮影を行う前にカメラの「セットアップメニュー」から「レンズ情報手動設定」を選択し、焦点距離や開放絞り値などを登録する必要があります。とてもシンプルなデザインなのですが、それが逆に使いやすさを感じます。ピントリングは適度な重さがあってスムーズですし、絞りのクリックもしっかりしています。ファインダーを覗いて、じっくり、ゆっくりピント合わせを行うのは実に面白いです。わざと大きく外してから少しずつ合わせていくと、結像した瞬間にコントラストが高くなることが解ります。これがとても気持ちいいのです。構図を決めて、画面の左右と上下を見て、余計なものが写り込んでいないかをチェックします。そしてゆっくりシャッターを押す。という一連の動作を大いに楽しめるのです。ここからはデジタルカメラの良いところですが、モニターで露出と色のチェックができるので、その場で納得がいくまで、この動作を繰り返します。まさに「写真を撮る」ことを感じます。その日の状況=今日の被写体のことを考えて、真剣に撮影することの楽しさを満喫しました。
撮ってきた写真をパソコンで確認したら、現場で感じた色や質感がほぼそのまま再現されていました。極端にシャープすぎることもなく、コントラストも安定しています。紅い葉の様子もしっかりと解像してくれました。天気は相変わらずイマイチでしたが、とても充実した撮影でした。レンズのAF性能はどんどん進化して、シャッターを押すまでの時間はとても短くなりました。それはある意味ではとても便利だしありがたいのですが、たまにはこうして、じっくりピントを合わせて被写体と向き合うのも楽しいものです。或いは、こちらのほうが贅沢なのかもしれません。それが中古だと1万円台(2016.11.28現在)で手に入ります。カメラバッグに1本あると、撮影がより楽しくなるでしょう。
■撮影地
国営昭和記念公園 (2016年11月14日取材)
※撮影はすべてJpeg、手持ちで行っています。ピクチャーコントロールは風景に設定。
(Photo & Text by 高山景司)
Nikon AI Nikkor 50mm f/1.4S
http://www.nikon-image.com/products/lens/nikkor/ai_nikkor_50mm_f14s/
1981年発売
レンズ構成:6群7枚
最短撮影距離:0.45m
フィルター径:52mm
質量:約250g
撮影で使用したレンズ: ABランク 15,120円 / 後玉枠に少キズ。使用感は小さめです。
中古の見つけやすさ:☆☆☆ 流通量が豊富なので、程度や予算に応じて探せます。